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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第89話 自称後見人
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 宇宙歴七九〇年 二月一九日 ダゴン星域 アシュドット星系

 第四四高速機動集団はかろうじてメルカッツ艦隊の追撃を逃れたわけだが、問題は山積だ。

 まず燃料が尽きかけている。二度の会戦と逃走劇で想定を上回る燃料が消費され、巡航速度でカプチェランカ星系に向かうので精いっぱい。早急に補給の必要がある。

 次に兵器がない。燃料がないのでエネルギー兵器の使用は節約せざるを得ない。機雷は全て撃ち尽くした。レーザー水爆も中性子ミサイルも、相当な数を消費した。補給艦に確保されている分を戦闘艦艇に分配しても充足率は二〇パーセントを僅かに超える程度。一会戦分といったところだ。

 最後に兵員の疲労が激しい。特に最大戦速で舵を握っていた航法要員達の神経は殆ど擦り切れ寸前だ。集団は経済速度にまで落とされ、よほどのことがない限り舵を握ることのない戦闘士官が代わりに配置について、航法士官はタンクベッドへ物理的に担ぎ込まれた。

 それでも第四四高速機動集団の士気は高い。エル=ファシル星系からアシュドット星系までの長距離を走り抜け、さらに二つの戦いで優勢を確保している。損害もないわけではないが、今は興奮の方が勝っているのだろう。交代でタンクベッド睡眠をとり、疲労が抜けた将兵は先を争うように食欲を満たすべく艦内食堂に突撃する。飲酒も許可され、ベッドに戻る途中の廊下でぶっ倒れている若い兵がいるようなありさまだ。

 一方司令部はほどほどに忙しい。三交代で二時間毎の休憩を取った後は、戦後処理と次の戦いに向けた準備を進めている。カプチェランカ星系の友軍とは超光速通信の連結が図られ、相互の状況も確認されている。第八艦隊と付属部隊は順調にカプチェランカ星系の制宙権を確保し、地上軍がカプチェランカWに降下して制圧を試みている段階だという。しかしアトラハシーズ星系で三〇〇〇隻のイゼルローン駐留艦隊と遭遇している以上、近日中には艦隊決戦となる可能性が極めて高い。

 第四四高速機動集団の補給不足に対しては、第四一二広域巡察部隊より一個巡航艦戦隊を護衛戦力として抽出し、第八艦隊付属の巨大輸送船一〇隻と共に分派するので、中途星系にて合流し補給せよとの指示が下った。半ば敵地というダゴン星域で随分とのんびりしたことをするとは思うが、カプチェランカ到着早々戦闘となる可能性が高いことを考えれば致し方ない。

「まぁダゴン星域内を帝国軍が分進進撃する可能性は極めて低いだろうな」

 アシュドット星系の跳躍宙点に設置した無人偵察衛星から、帝国艦隊出現の報告が来ないのでじりじりしているモンティージャ中佐は、結局司令部会議室でガムを噛みながらブライトウェル嬢の勉強を見ていた。情報将校という生き物はだいたい多芸なのだが、モンティージャ中佐は自然科学系それも地学が得意なのは意外だった。
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