七十二 光と闇
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の震えが、恐怖なのか興奮なのか畏怖なのか、ミズキにはまだわからなかったが、どちらにしても驚きで声がでない。
呼吸も瞬きさえ忘れて、目の前の光景に釘付けだったミズキの視線の先で、幼子がゆらり、と揺れた。
直後、視界が蒼に染まる。
至近距離でミズキは見た。
幼子の瞳の蒼を。
沈んだ海よりも昏く淀んだ蒼を。
首筋に痛みが奔る。
心臓が跳ねた。
ふわ、と軽く幼子が跳んだ。
それだけでミズキの正面へ来ていたのだ。
一瞬で。
動悸が激しくなる前に、死の影が差し迫る。
「おまえは…木ノ葉か」
死を覚悟したミズキの額当てを確認して、幼子がクナイをおさめる。
首の皮一枚で済んで、息を吐いたミズキはへなへなと腰を抜かした。
その様子を見下ろす幼子はやはり二歳ほどの幼さで、今し方複数の手練れの忍びを手に掛けたとはとても思えない。
それでも、普通とは圧倒的にかけ離れている存在だと、ミズキにも理解できた。
幽明の存在か、あるいは幽冥からの使者か。
愕然と呆けるミズキを酷く冷たい眼差しで、幼子は見下ろす。
「木ノ葉はころさない。だけど、」
その言葉の先を幼子は口にはしなかった。
けれど、ミズキにはわかった。
今し方起きた出来事を話せば己の命は無いという事実を。
けれどそれ以上に、幼子のほうが気になった。
どうしようもなく、あの炎の蒼が瞳に焼き付いて離れなかった。
子どもを視線で追い駆けた。追い駆け続けた。
九尾の狐だと煙たがれ、常にあの子は里人からの憎悪の視線を一身に受けていた。
そしてしょっちゅう、迫害され甚振られ暴力を振るわれていたのを、ミズキは見ていた。
見ていた、だけだった。
だが流石に、里人以外にも暴力を振るわれている状況は、無視できなかった。
崖から放り出されたのを見ていた。
里人や一般人では到底傷がつけられないクナイの傷跡を全身に刻まれた小さな身体が、青く澄んだ空へ放り投げられたのを、ミズキは見上げていた。
九尾と同一視する人間は里人だけではない。
一部の忍びもそうだ。
木ノ葉の忍びの誰かが、子どもを崖から突き落としていた。
息を呑む。同時に、硬直していた身体が動いた。
子どもが墜落した場所へ駆ける。
崖下を彷徨い歩くと、ひらけた場所へ躍り出た。
其処は一面の花畑だった。
群生して花弁を空へ向けているその花々は、全て彼岸花。
その鮮やかな緋色の中に一点。
金色が見えた。
緋色の群れを掻き分けて進んだミズキの視線の先で、金色は何事もなかったように立ち上がる。
あれだけ里人に虐待を受け、一部の忍びに暴力
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