第88話 アトラハシーズ星系会戦 その4
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・無推進投射…… 実際は二分もなかっただろう。喋っている俺としては一〇分以上に感じられた俺の進言を爺様はじっと俺の顔を見ながら耳を傾け、聞き終わると席を立ち左手で俺の肩を揺すった後でファイフェルを呼びつける。
「ファイフェル、戦闘艦橋にデコイとレーザー水爆の残弾を報告させよ」
ものの数秒。ファイフェルはマーロヴィアの頃に比べてはるかにこなれた手つきで連絡を取る。
「デコイは四発、レーザー水爆の残弾一六発だそうです」
「戦艦全部であわせてだいたい五〇〇〇発というところじゃな。些か心もとないが、できる限り引き付けてから放出するしかなかろう」
ウンウンと二度ばかり頷くと、一度モンシャルマン参謀長に無言で視線を送る。参謀長もそれに対して一度だけ頷いて応じると、爺様は俺に命じた。
「ジュニア、分単位の敵味方の速度・相対距離のシミュレーションを作れ。放出のタイミングは儂が指示する」
「承知いたしました」
直ぐに自分の席に戻り、艦隊運用シミュレーションを使って言われた通りのモノを作る。すでに何度も検証したアトラハシーズ星系の航路図を基盤に、第四四高速機動集団のこれからの航路と観測されたメルカッツ艦隊の動きからの推定航路を入力し、それを模擬化する。小さな三つの突起を持つ赤い矢印を、青い紡錘が追いかけるようなシミュレーションを見て、爺様は満足そうに頷いた。
「ファイフェル。機動集団全戦艦に伝達。残存するレーザー水爆を三分おきに四発ずつ、進路同軸にて、無推進・無誘導にて投射せよ。投射のタイミングはエル=トレメンドより指示する」
「ハッ! 麾下全戦艦へ。残存レーザー水爆を三分おきに四発、投射方向は〇六〇〇。無推進・無誘導で投射。投射タイミングは旗艦信号に合わせ」
ファイフェルの声がマイクを通して戦闘艦橋に響くと、「はぁああ?」という水雷長の声が聞こえてくる。それはそうだ。レーザー水爆を無推進で、さらに命中精度を極限まで下げるような無誘導でしかも真後ろに投射しろなんて命令、ベテランの水雷長でも受けたことはないだろう。
そう考えると何となく可笑しくなって俺の頬も緩んでくる。さてメルカッツがどう反応するか。デコイを撃っても反応しない、置き石同然のレーザー水爆に。掃射か、回避か。いずれにしても脚は遅くなる。
一一一五時。爺様はレーザー水爆の投射を指示する。跳躍宙点まで一時間を切り、相対距離はメルカッツ艦隊の戦艦の最大射程距離まであと二〇分という絶妙なタイミングだ。レーザー水爆とメルカッツ艦隊の触接まで一五分。帝国軍の砲手達は大混乱だろう。目標を敵艦からレーザー水爆に変更となれば、いきなり長距離砲戦から近距離砲戦にレンジを切り替えなくてはならない。
一一三〇時。案の定、メルカッツ艦隊は近距離砲戦による掃射を選択した。その
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