第88話 アトラハシーズ星系会戦 その4
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時間。爺様が全艦に直接電文で長距離跳躍の手順を再度確認せよと指示を出しているので、手間取ることはないだろう。予定であれば一二〇〇時には跳躍宙点に飛び込み、一三〇〇時には全艦の跳躍を終えられる。その時点でメルカッツ艦隊は帝国軍戦艦の最大射程より時間距離で五分の差がある。
そういう計算を司令部から敢えて発信し、戦艦エル=トレメンドの戦闘艦橋も第二級臨戦態勢を維持しつつ交代で休息に入って三〇分経った一〇五五時。当番観測オペレーターの叫びが、戦闘艦橋だけでなく司令艦橋まで届いた。
「後背の敵艦隊、さらに増速しています!」
観測された速度は戦闘集団行動速度としてはありえない。帝国軍宇宙母艦の最大戦闘速度すら超えている。敵艦隊から脱落艦が出ているのも観測されているが、集団としての陣形はそれなりに維持されている。
「……つまり輸送艦や工作艦、近接戦闘するつもりなどないから宇宙母艦すら捨てて、追っかけてきておるというわけじゃったか」
爺様の独白が、司令部を重くする。再計算すれば、第四四高速機動集団とメルカッツ艦隊は殆ど時差なく跳躍宙点に飛び込むことになる。
「せめて機雷があれば……」
ファイフェルの口から僅かに零れる呟きも理解できる。なりふり構わない追撃だ。もしこの状況下で機雷回避できるような練度だとしたら、疾風ウォルフどころではないだろう。
だいたい敵の数は既にこちらとほぼ同数かむしろ少なくなってはいるが、現時点で反転迎撃できるような時間的にもエネルギー的にも余裕はない。何とか敵の脚を鈍らせる方法はないか……
「……レーザー水爆は」
ほんの小さな声。しかも司令部で役職についている士官ではない。だがここ一年、任務以外の無茶な手伝いをさせられ、常に司令部と一緒に行動して小規模遭遇戦闘も含めれば一〇回以上も実戦の場に立った彼女の声に、俺とカステル中佐は反応した。
「ボロディン少佐。レーザー水爆は後ろには撃てない、わけではないよな?」
「VLS投射ですから可能です。ただし自己誘導となりますので命中精度は低下するというだけです」
しかし現状は命中精度を考える必要はない。というより推進すら切って投射装置から自艦に当たらないように押し出すだけでいい。下手に推進装置を生かせば、メルカッツなら囮を発射して誘導し、容易に回避するだろう。
幸いと言うか、破れかぶれの偶然だが、動きのとろい工作艦と輸送艦は集団の先頭にいる。両翼端に第二第三部隊の戦艦部隊、最後衛はこのエル=トレメンドの所属する第一部隊の戦艦部隊だから、レーザー水爆を無誘導投射されても後に味方艦は居ないので衝突する可能性はない。
「司令官閣下」
俺は爺様の傍に駆け寄って、頭に思い浮かんだ構想を練らずにそのまま口に出した。各艦間隔の拡張と整列、レーザー水爆の無誘導
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