第88話 アトラハシーズ星系会戦 その4
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点での時間的余裕は?」
「一〇分ありません」
こめかみに青筋を浮かべているモンシャルマン参謀長の鋭い眼差しが、エックス線探知機のように直立不動の俺の体を射抜いてくる。一方で爺様は口を開くことなく半目で、メインスクリーンに映し出されている航路図を見ている。沈黙が一分を超えそうになった時、爺様はカステル中佐を呼びつけた。
「カステル。工作艦の速度を上げることは可能か?」
「可能ではありますが、衝突回避行動に無理が生じます。波及事故になった場合、乗員ごと見捨てることになりかねません」
そのくらい分かっているだろうとまでは言わなかったが、カステル中佐の言葉にあまり熱意がないのも確かだった。だが爺様はそれを咎めず、今度は俺に視線を送ってくる。
「この星系は比較的安定しており、小惑星帯や彗星群はほとんどない。そうじゃな、ジュニア?」
「はい。正確には彗星群はありますが極めて小規模で、当集団の進路上には確認されておりません」
「よし。では陣形を変更じゃ。工作艦と輸送艦を、集団の先頭に出せ」
爺様の何気ない一言に、幕僚一同で顔を見合わせた。一番足の遅い工作艦を先頭に出して、回避行動を最小限にしつつ速度を上げさせるという事か。部隊行動としては非常識極まりない案だ。工作艦は所詮支援艦艇であって、戦闘艦艇並みの高性能なレーダーは装備されていない。工作艦の巡航速度が遅い故に回避行動に余裕が持てる為、レーダーもそれに合わせた物しか積んでいないわけだが……
「工作艦を集団中央に、戦艦を両翼に並べて長距離索敵と前面偏差掃射を行うという形でよろしいでしょうか?」
「分かっておるなら、すぐに陣形案を作成せんか」
「……承知いたしました」
そもそも星系内を工作艦の最大巡航速度で移動・戦闘している時点で異常なのだ。最大『巡航』速度が最大『戦闘』速度になったところで大して変わらない。工作艦の燃料消費に問題が出そうなので、カステル中佐に一度視線を向けると分かってると言わんばかりに左手を小さく振る。工作艦と補給艦が先頭に立つのだから、FASしやすい様に交互にならべさせればいいだろう。
二〇分かけて陣形案を作成し、参謀長と爺様の承認を受け各艦がゆっくりと陣形を変え終わったのが、〇六〇〇時。工作艦へのFASは殆ど限界速度のため、機械操縦に切り替えて行われた。その為に時間を喰われて〇八四五時。ようやく部隊速度を上げることに成功する。
しかしその間も後方から着々とメルカッツ艦隊は距離を詰めてきている。イゼルローンからの増援艦隊は追撃を諦めたらしく、背後から追ってくる艦艇は二〇〇〇隻程度。それでも同盟軍における戦艦の最大戦速を維持している。
「かろうじて逃げ込める、のか?」
障害物が殆どない跳躍宙点で長距離跳躍に必要な時間は約一
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