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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第88話 アトラハシーズ星系会戦 その4
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「集団基準有効射程まで残り一〇分」
「総員、第一級臨戦態勢に移行。最大射程一分前に挑戦信号を発せよ」

 敵も速度を上げて逃走を図ろうとするが、パワースイングバイによって十分に加速された第44高速機動集団の速度に追い付くには時間も出力も足りない。そのうち僅かながら敵艦隊の陣形が乱れる。艦種の違いによって加速度に差がある故なのだが……

「まるで五ケ月前の我々を見ているようですな」
 モンシャルマン参謀長の顔には微妙な笑みが浮かんでいる。あの時は追っかけられる側だった。今度は追っかける側になる。
「各艦に作戦と状況を徹底させよ。進路維持による一撃離脱。損害を受け速度を維持できない艦は自沈処分。乗員はシャトルにて後衛の戦艦ないし輸送艦に移乗」
 参謀長の訓示がファイフェルを通じて各艦に伝えられる。作戦の根幹は速力だ。功を求めて蹂躙戦をする余裕はない。

「最大射程まであと一分。挑戦信号、発します」

 帝国・同盟共通の信号の一つ。もはや今更だが「これから戦うぞ」という意思を敵ではなく味方に示す意味もある。圧倒的とまでは言えないが優位な状況での『中指立て』に、司令艦橋下にある戦闘艦橋の士気は目に見えて向上する。

「敵艦隊中央部、有効射程に入りました」
「撃て!(ファイヤー)」

 爺様の手が振り下ろされ、旗艦エル=トレメンドが斉射を開始すると、直属戦隊から旗艦部隊、第二・第三部隊と順次砲火が開く。陣形は単円錐陣。一団となり全ての艦が進行方向への砲撃が可能になるよう配置されている。前方への圧倒的な火力投射量と攻撃速度を有する陣形だが、各艦が規定値以上の射角を取って砲撃してしまうと『味方のケツを蹴り上げてしまう』危険もある。
 御託も巧緻も必要ない。次席参謀の意見具申の幕などない。ただひたすらに前へ、前へ。限られた射角内に収めた敵に対し、主砲を叩きつけるのみ。

 円錐陣の頂角は第三部隊旗艦戦艦部隊一一三隻。もっとも損害の少ないバンフィ准将の戦艦部隊が、五個分隊二五隻で楔を作りそれを縦列に形成し、敵艦隊左翼後衛の駆逐艦と輸送艦を吹き飛ばしつつ、敵の中核部隊へと躍り込んでいく。三連どころではない継続的な斉射で砲身が危険温度に達した艦は一度速度を落とし、後ろに並んでいる別の戦艦分隊の楔と交代する。一巡したら今度はプロウライト准将の第二部隊戦艦部隊が前に出る。

 その両翼、円錐陣の斜め側面には巡航艦部隊が斜陣形を形成している。こちらは鋸の歯のように敵陣を切り広げる役目だ。やはり分隊単位でリニアモーターカーの磁極変異のごとく斉射と砲身冷却を交互に繰り返しながらひたすらに前進を続ける。

 円錐陣中央後部には輸送艦・工作艦と宇宙母艦。それに護衛の駆逐艦がアボカドの種のようにがっちりとした球形陣を作る。先頭集団から脱落し
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