第88話 アトラハシーズ星系会戦 その4
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宇宙歴七九〇年 二月一八日 アスターテ星域 アトラハシーズ星系
戦闘要員が交代で休息をとる中、補給・船務要員と航法要員が必死になって恒星アトラハシーズ軌道上でFASを行い、全ての艦の補給充足率が約四〇パーセントに均されたのはカステル中佐の予想した通り、五時間後の一八日〇〇〇〇時であった。
補給作業中、爺様と参謀長は、実質戦闘能力の三割を失った第一部隊の再編成を行っている。特に被害の大きかった戦艦部隊では、集団司令部と分隊の間をつなぐ隊司令に戦死者が相次ぎ、緊急措置として、数人の少佐艦長を大佐に戦地臨時任官している。戦場ではよくあることとはいえ、中級幹部の喪失は部隊運用の面で影響が大きい。
それでもかろうじて戦列を整え、恒星アトラハシーズに接近し、パワードスイングバイに備えることができた。スイングバイは天体に近づくほど加速効果は大きく、且つ軌道を大きく曲げられる。イゼルローンから来た増援艦隊の左後背位置を確保するにはどうすればいいか、俺はファイフェルを扱き使いつつ幾つものシミュレーションを行い、航路を算定した。増援艦隊がフィンク中佐の観測した速度より遅ければ、我々は敵の左前方に飛び出してしまうし、逆に速ければ攻撃範囲を逸脱してしまうだけでなく挟撃される恐れがある。
さらには必要以上の加速もできない。敵艦隊に一撃を与える以上、戦闘宙域には無数の破片がばらまかれることになる。シールドや弾幕で対処できる小さいものならばまだしも、破壊された艦艇の残骸と衝突すればただでは済まない。破片への対応距離を考慮しつつ、各艦の間隔と艦の機動性を天秤にかけた最大速度を算定する必要がある。そして機動性の最も乏しい艦は艦隊随伴型工作艦だ。故に工作艦の『最大巡航速度』を基準として部隊行動を策定することになる。
俺としては最大限尽くしたつもりなので、あとは運に委ねるしかない。結局一度も休息をとることなく、俺は次席参謀席から動くことなく、恒星アトラハシーズを左画面いっぱいに見ながらスイングバイ航路を進む第四四高速機動集団の戦列を眺めた。
「いい部隊だと思う」
いつの間にか艦橋に戻ってきたモンティージャ中佐は、背後に立って俺にだけ聞こえるような小さな声でそう呟いた。
「指揮官は百戦錬磨。参謀長は知性と経験と信頼に厚く、副官は日増しに要領が良くなっている。補給参謀は口は悪いが、能力は折り紙付き。部隊各艦も司令部の命令に対し信頼を寄せ、能力を向上させている」
「そうですね」
「だが司令官は兵卒からの叩き上げ。参謀長は専科学校出身。副官は司令官以外の上官に仕えたことはなく、補給参謀は良くも悪くもプロフェッショナル。直衛には脛に傷を持つ分隊もある」
「何が仰りたいのですか?」
アトラハシーズ星系に入ってからというもの、モンティージャ中
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