第三章
[8]前話
「いいな」
「その時が特にか」
「気に入った、青い川にな」
桐林の中のというのだ。
「薄紫の桐の花の花びらが流れれば」
「尚いいか」
「全くだ、こんないい景色はない」
磐司は微笑んで話した。
「最高だ。本当にいいことをするとな」
「身重の山の神を助けてか」
「いいことがあるな」
「百足を倒せてか」
「こんな素晴らしい桐林を貰えたんだからな」
山の神に笑顔で話した。
「よかった」
「そう言うか」
「ああ、いいことをしたら本当にな」
こんなことがあるのだとだ、彼は山の神に話した。
彼は村人達も案内して一緒に桐林を見て楽しんだ、だが。
長老はその彼にだ、こう言った。
「そこまでの道がな」
「わかりにくいか」
「どうもな」
こう言うのだった。
「わかりにくいどころかな」
「わからないか」
「お前さんに案内してもらわないと」
それこそというのだ。
「もうな」
「そうなんだな」
「だからな」
「だから?」
「お前さんが死んだら」
そうなると、というのだ。
「もうな」
「それでか」
「ここを知る人はいなくなるな」
「そうなるか」
「きっとな」
こう磐司に言うのだった、そして山の神である老人も彼にそう言った。
「お前さんがいなくなれば」
「ここのことはか」
「人はな」
「誰も知らないか」
「お前さんの名前から磐司ヶ洞と名付けたが」
この場所はというのだ。
「お前さんがいなくなればな」
「誰か見付けないか」
「どうだろうな」
老人は彼に笑って応えた、そして実際にだった。
彼が死ぬと誰もそこに行けなくなった、こうしてこの場所はこの山の神の手に戻った。だがそれでもだった。
この神はかつて磐司が助けた女の山の神に話した。
「またな」
「ああした人が出て来れば」
「洞を譲る」
「そうするのね」
「ああ、誰か出て欲しいな」
こう言うのだった、そしてまた彼の様な人物が出て来ることを待つのだった。それは今も続いているという。
桐林の主 完
2022・12・13
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