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剣の丘に花は咲く 
第五章 トリスタニアの休日
第七話 狐狩り
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リッシュモンではなかったが、最近よく見かけることや、昨日、雨の中屋敷に女王が誘拐されたと伝えに来たことから名前を覚えていたのだ。
 待ち伏せされたと一瞬焦ったリッシュモンであったが、他に仲間がいないことに気付くと、あからさまに馬鹿にした顔をアニエスに向けた。

「飼い主が馬鹿なら犬も馬鹿ということか。命が惜しければさっさとどけ。ゴミを片付ける時間も惜しいのでな」

 剣や銃を持っているとはいえ、メイジではない唯の平民。しかも一人しかいないとは、驚異でもなんでもない。この抜け道を知っているとは、大方劇場の設計図でも手に入れたのだろうが、功を焦って一人出来たのだろう。
 杖を振りアニエスに退くよう指示をするリッシュモン。
 リッシュモンが杖を振るたびにアニエスの顔が闇の中消えたり現れたりする。

「……何のつもりだ」

 杖を振るう手を止めると、アニエスが杖の明かりに照らされる。アニエスはリッシュモンに銃を向けていた。リッシュモンはアニエスに杖を向けている。

「平民の貴様に寛大にも教えてやるが、この距離では銃は当たらんぞ。それに私は既に呪文を唱え終えている。後はそれを解放するだけで貴様を殺せるのだ。貴様にはあの小娘に命を掛けるほどの価値があると思っているのか?」

 絶対の勝利を確信しているのだろう。逆の立場である絶対の敗者に掛ける声は慈悲深く聞こえるほどに優しかった。だからこそ、その声は強烈な不快感を引き起こす。

「く、くくく」

 笑い声が、狭い通路に反響する。
 
「何が可笑しい」

 唐突に笑い出したアニエスに、リッシュモンは眉をひそめる。自分の陥った状況に気付き、気でも触れたかと思うリッシュモンに、アニエスが歪んだ笑みを向けた。

「何、貴様を殺せるのが嬉しくてな」
「何を言っている?」

 意味がわからなかった。
 先程アニエスに忠告した通り、アニエスに勝ち目はない。それは相手も気付いているはずだ。魔法を遮るものが何もなく、狭いこの地下通路に呪文を唱え終えたメイジと向き合って勝てる平民等いるわけがない。
 なのにこいつは今なんと言った?
 私を殺せるだと?
 何を言っているのだ?
 本当に気が触れたのかと思うリッシュモンの前で、アニエスが口を開く。

「覚えているか、私が昨日貴様の屋敷から去る時に尋ねたことを……二十年前の『ダングルテールの虐殺』のことを」
「ダングルテール……? 貴様、まさか……ははっ! そうか貴様はあの村の生き残りということか! 道理でああもしつこく聞いてきたというわけかっ!」

 昨日、アニエスが屋敷に女王が拐われたと報告に訪れた際、唐突に関係がないことを聞いてきた。その時は女王が拐われたということに意識があり、特に気にしてはいなかったが、そういうこ
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