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ドリトル先生と山椒魚
第七幕その五

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「ああしたことがあったわ」
「そうでしたね」
「ほんま戦争は辛いな」
 織田作さんはこうも言いました。
「私は結核やったさかい」
「徴兵されず」
「軍属にもならんかったが」
 それでもというのです。
「疎開もしたし」
「そうしたことも見てこられましたね」
「そやったし検閲もきつくなってたし」
 このこともあってというのです。
「ほんまにな」
「戦争は、ですね」
「起こって欲しくないわ」
「本当にそうですね」
「先生も思うな」
「はい、平和が一番です」
 先生もこう答えます。
「何と言っても」
「そやな」
「平和であってこそです」
 まさにそうであってこそというのです。
「学問もです」
「普通に出来るか」
「小説の執筆と同じで」
「平和であってこそな」
「充分に出来ます、戦争になれば」
 若しそうなればというのです。
「まず世の中から余裕がなくなります」
「それな、娯楽がなくなってくな」
「まずは。そして学問もです」
「する余裕がなくなるわ」
「戦争に勝たねば全てを失います」
 先生は蛸のお刺身を食べつつ言いました。
「そうなるので」
「国としても必死で戦うわ」
「私の生まれた国イギリスもです」
 先生の祖国もというのです。
「ナポレオンとの戦いでも二度の世界大戦でも」
「負けたらえらいことになってたな」
「そうでした」 
 お刺身を食べて日本酒を飲んでから答えました。
「そうなっていましたので」
「全力を以て戦ったな」
「国家の総力を結集させて」 
 そのうえでというのです。
「戦わねばならず」
「そうして戦ってな」
「勝たねばならないので」
「余裕がなくなるわ」
「まずは娯楽が」
「そこに小説もあってな」
 織田作さんが書いていたそれもというのです。
「他にもな」
「色々な娯楽が消えていきますね」
「娯楽って余裕があるから生まれるものやさかいな」
 織田作さんは達観した様に言いました。
「そやからな」
「戦争で余裕がなくなれば」
「そこからや」
 娯楽からというのです。
「なくなってくわ」
「今は娯楽が非常に多いですが」
「それが次から次にな」
 まさにというのです。
「なくなってくわ」
「そうなりますね」
「今の時代で言うたら小説だけやなくてな」
 それに限らずというのです。
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