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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第87話 アトラハシーズ星系会戦 その3
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網を広げないという前提での綱渡りだが、このままの進路で変わりがなければ我々には六時間の余裕がある」
 モンシャルマン参謀長は航路図を指差した後で、全員に向き直って言った。
「補給部は全艦に最大限の補給を行う。それ以外の要員は三交代二時間ずつで休息をとらせる。然る後、スイングバイを利して最大加速。明朝〇一〇〇時をもって敵イゼルローン駐留艦隊別動隊の左後背より接近、中央突破。敵が混乱している隙を突き、速度を維持したまま自然曲線航路を持ってダゴン星域への跳躍宙域に向かう」
「イゼルローンからの増援部隊が観測時点より進路を変更した場合は遭遇戦闘となり、メルカッツ艦隊との挟撃になる可能性があると思われますが?」
 第八七〇九哨戒隊がイゼルローン駐留艦隊の索敵網に引っ掛かっていた場合、追跡することによってこちらの位置が判明し、それがメルカッツに伝えられればそういう選択肢をとる可能性があるだろう。前方に三〇〇〇隻、後方に三〇〇〇隻。三対一の挟撃戦となれば圧倒的に不利だ。
「後背のメルカッツ艦隊が分進合撃を選択しない限り、同時挟撃は出来ない。我々の目的がダゴン星域への打通と認識しているのであれば、イゼルローン駐留艦隊を早急にダゴン星域との跳躍宙点へと向かわせるだろう。星系内で追っかけまわすより、確実に我々を捕捉できる」
 敵の進路に先回りして膠着状態を作り、その後背から挟撃する。帝国軍としては理想的な作戦構想だ。ただしそれに対して我々は、幾つもの幸運と恒星アトラハシーズを利用して六時間以上早く行動する。あえて反対意見を言った俺だが、参謀長の意見に頷いて賛同すると、視線は自然と爺様へと集中する。
「参謀長の案を是とする」
 爺様は居並ぶ全員に鋭い視線を送った後、深く頷いて決断した。
「小細工抜きの一撃離脱じゃ。各員は交代で休息をとりつつ、準備を整えよ。以上じゃ」

 爺様の最終指示に、全員が敬礼で応える。決断された以上、各員は為すべきことを為すだけだ。

 一番忙しくなるカステル中佐は司令艦橋にある自席に補給部の部下達とエル=トレメンドの補給部員を集め、各戦隊単位での物資調整を行っている。補給部員には女性も多く、普段は嬢を除いて男だらけの司令艦橋を女性将兵が出たり入ったり、インカムを付けて連絡したりと普段の数倍姦しい。

 一方でモンティージャ中佐は姿を消している。捕虜からさらに情報を搾り取ろうとしているのか、それとも何か別の目的があるのか、居場所すら教えてくれなかった。

 結局俺は爺様と参謀長とファイフェルが一緒に飯を食べに行ってしまったので、ぼんやりと一人、司令艦橋の自席に座って留守番しつつ現有戦力の把握と、作戦上の洗い出しと航路の再チェック、戦闘機動運用プログラムの入力をしている。忙しそうに駆け出していく補給部員達から時折呪いのような
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