第三章
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「本当にな、けれどな」
「どうしたのじゃ」
「いや、それでもな」
こう曽祖父に言うのだった。
「白黒の写真だから昔だってな」
「思ったか」
「昭和三十年代になるとな」
それこそというのだ。
「もうな」
「それはな、横浜も随分変わったしな」
「この頃と比べるとか」
「かなりな、しかし海はな」
そこだけはというのだ。
「本当にな」
「この頃からか」
「変わっておらんわ」
「そうなんだな」
「そこだけはな、それでな」
「今日はその海を観てか」
「懐かしくなってな」
それでというのだ。
「ついついな」
「そうしたこと言ってか」
「アルバムもじゃ」
これもというのだ。
「お前に観せてな」
「話してくれてるんだな」
「そうじゃ、それでな」
「それで?」
「ケーキ食わんか」
曾孫に笑ってこうも言った。
「冷蔵庫にあってな」
「ああ、ケーキか」
「婆さんと三人でな。この前いい店を見付けてな」
「それでか」
「そこで買っておる」
そのケーキをというのだ。
「これが美味くてじゃ」
「俺もか」
「よかったらどうじゃ」
「悪いな」
これが曾孫の返事だった、顔は明るい笑顔になっていた。
「俺ケーキ好きだしな」
「ではな」
「ああ、一緒に食おうな」
「そうするぞ、海は変わらんが街もわし等も何かと変わってな」
モダンやモカだった頃と比べてというのだ。
「その中にはな」
「ケーキもあるのかよ」
「わし等の若い頃はケーキなんてな」
「あっただろ」
「あっても今程美味くなかったんじゃ」
「そうだったんだな」
「しかし今のケーキは美味からな」
猛は真之介ににこりとして話した。
「時々な」
「ひい祖母ちゃんと一緒に食ってるか」
「そうじゃ、ではな」
「今からか」
「一緒に食うぞ」
こう話してだった。
三人でケーキを食べた、猛はその時は妻と一緒に曾孫に自分達の若い頃のことをさらに話した。そこには温かい郷愁があり曾孫もその話を微笑んで聞いた。今のケーキも共に味わう昔の話もどちらも美味いものだった。
ノスタルジックロマンス 完
2022・12・14
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