豪華な朝食
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屋内へ声を響かせるが、紫の使い魔からの返事はない。
待てど暮らせど、探し回っても、ハルトの生命線たる指輪は一つも見つからない。
やがてその結論に辿り着いたハルトは、現実を否定するように頭を振る。
「……いやいや、まだそうと決まったわけでは……えっと、こういうときは……素数でも数えるか? 2,3,5,7,11,13,17……」
次は何だったかと強く目を閉じたハルトは、もう一度机の上を見る。
窓の近くに設置してある机。その上には、やはり何も置かれていない。
つまり。
「ああああああああああああああああああ!」
「何!? 今の声!?」
ハルトの悲鳴に、可奈美が血相を変えて飛び込んできた。
彼女の口元には高級料理の食い残しが付着していたが、ハルトは可奈美の顔を見ることなく、部屋をかき乱す。
「ない! ないんだよ!」
「ないって、何が?」
可奈美がハルトの肩から頭を覗かせた。
ハルトは急いで振り向く。すると、位置が近いのもあって、可奈美とハルトは額をぶつけた。
「ぐあっ!」
「痛っ!」
ハルトと可奈美は、同時に額を抑えた。
「いっつ……どうしたのハルトさん?」
「そ、そうだ! 痛がっている場合じゃない! ないんだよ!」
「さっきからないって、何が?」
「指輪! 指輪がどこにもないっ!」
「え? 指輪? 指輪って……指輪!?」
事の重大さを遅れて理解した可奈美もまた、同じように叫んだ。
「指輪って、ウィザードの指輪だよね!? 何で!?」
「俺が聞きたいよ!」
そう叫びながら、ハルトはもう一度部屋の中をぐるりと見渡す。
「ほら! ここに、あの箱が置いてあったんだよ」
ハルトはそう言って、備え付けの机を指差す。
そこには、先月ゴーレムが作った指輪専用のケースが置かれていたはずだった。だが今、閉まっている窓から差し込む太陽光の下には、何も置かれていない。
「今朝起きた時はあったと思うんだけど……」
「ハルトさん、今日今までなにしてたっけ?」
可奈美の言葉に、ハルトは記憶をたどる。
「何って、これといったことなんてしてないよ? 朝起きて、歯磨いて、朝食食って……」
その時、ハルトは凍り付く。
いつもとは違う、今朝だけの出来事。
高級料理と。
「あの男だああああああっ!」
今朝、朝食を提供した青年の顔を思い出したハルトは、勢いよく部屋を飛び出した。
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