(7)死期が近いので
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今、起きてらっしゃいますよ。
病室に入るときにすれ違った看護師からそう言われた亀男が、ゆっくりとベッド横に向かった。
ぼんやりと目をあけていた泉に一言あいさつをし、窓のカーテンを開ける。
青一色の、空。
その下に広がるのは、お互いに馴染みのある故郷の景色。
亀男はいったん窓から離れ、スイッチを押してベッドを十分に背上げした。
「よい景色だ」
泉がそうつぶやくと、亀男はふたたび窓へと近づき、外を見る。
複合商業施設が、小春の日差しで柔らかく輝いていた。
休日ということもあり、大通りは車だけでなく、歩道にいる人の数も多い。全体的に歩く速度はゆっくりであり、葉が散り終えた街路樹の横にあるベンチでは、焼き芋らしき袋を抱え談笑する親子連れの姿などもあった。
「まさか、政治家を六十年やることになるとは、思わなかったが。まあまあ良い人生だったと言うべきか」
ゆっくり、ささやくような喋り方。だが不思議な力強さがあった。
「先生は大臣も任されましたし、功績をたたえられて叙勲もされました。国民のために勉強し働いた、素晴らしい人生だったのでは」
私も、まさか本当にずっと面倒をみていただけるとは――。
そう続けようとして泉を見ると、すでに彼のまぶたは落ち、胸部だけがわずかに規則正しく動いていた。
亀男はふたたびスイッチを押し、ベッドをフラットに戻した。
「あっ、奥様」
そこで、泉の妻が病室にやってきた。
「すみません。少しだけ先生の意識が戻っていたのですが、今また眠られてしまったようです」
泉の妻はクロッシェ帽子を脱ぐと、柔らかい笑みを浮かべた。
「いえ大丈夫ですよ。亀男さん」
そしてベッドの横の椅子に座ると、自らの手を泉の手にそっと重ねる。
「もう、言葉は要りませんもの」
それを聞くと、亀男も顔をほころばせた。
(完)
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