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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第86話 アトラハシーズ星系会戦 その2 
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られない。モンシャルマン参謀長は爺様の椅子に瞬時に捕まっていたようで、あっさりと立ち上がり戦闘艦橋と連絡を取り合っている。ファイフェルはその横でこけてはいるが、意識ははっきりしているようで、自分の席に向かって体を動かし始めている。ブライトウェル嬢は……

「ブライトウェル伍長!」

 彼女は俺のすぐ右横で、床に両膝をつき、右手で灰色のジャケットの胸の部分を掴み呼吸を荒げ、焦点が合っていない瞳は大きく開いている。パニック障害か過呼吸に近い症状だ。意識はあるが俺の呼びかけに反応しない。
 俺は一度爺様に視線を送ると、爺様は何も言わず左手の指を三本上げただけで、すぐに指示を出すべく参謀長へと向き直る。それを『三分間待ってやる』と俺は勝手に解釈して、ブライトウェル嬢の前に膝をついて、彼女の両頬を両手で挟み込んだ。

「ブライトウェル嬢。俺が、分かるか?」
 単語ごとに区切ってゆっくりと話すと、二〇〇ミリを切った近距離にあるブライトウェル嬢の顔に意識が戻ってきたようで、俺の両手に顔を上下する僅かな振動が伝わってくる。
「よし。息を、するぞ」
 俺は両手を円にして嬢の頬から口を包み込む位置に移動する。両手の奥にブライトウェル嬢の申し訳程度に化粧された少し薄めの唇がのぞくが、その健康美について今はどうでもいい。
「五秒、息を、鼻で、吸え」
 それに合わせて鼻をすするように、嬢は息を吸う。
「一〇秒、息を、口から、吐け」
 今度は口を小さく開きゆっくりと息を吐く。嬢の淡く生暖かい吐息が俺の両手を撫でるが、それも、今は、どうでもいい。
「もう一度だ。五秒、息を、鼻から、吸え」
 大きく開いていた眼は閉じ、先程とは違ってよりスムーズに、鼻へと艦橋の電子臭に富んだ空気が流れ込んでいく。
「一〇秒、息を、口から、吐け」
 さっきまで緊張で固まっていた嬢の両肩から力が抜け、再び生暖かい息が吐き出される。吐き終わると、ゆっくりとダークグレーの瞳が開いていく。先程とは違う、明らかに現在の状況を把握した目付きだ。俺が彼女の口周りから手を離すと、「あ」と声が出たが、直ぐに口はきつく閉じられる。

「よし、今の呼吸をあと一〇回繰り返せ。繰り返し終わったら、医務室まで行って、消炎鎮痛剤のスプレーを持ってきてくれ」
「……了解いたしました」

 敬礼しようとして腕の上がらない嬢は、跪いたままそう応える。後ろから聞こえる呼吸音を尻目に俺が立ち上がって痛みの残る左肩を廻すと、艦橋右翼にあるカステル中佐の視線が俺に向けられているのが分かった。いつものように眉間に皺が寄っている。俺が慌てて中佐の傍によると、中佐の顔にはハッキリと呆れてものが言えないと書いてあるのが分かった。

「何か問題がありますか? カステル中佐」
「補給の問題は大したことはない。もう
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