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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第86話 アトラハシーズ星系会戦 その2 
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ステル中佐は、同時に開いている三つの端末の一つに集中し、キーボードを想像以上の速度で叩いた。俺がカステル中佐の傍につくまでに一〇秒もかかっていないはずだが、俺が顔を寄せたタイミングで印字されたペーパーを差し出す。

「今のペースだと、『戦闘可能時間』はもって八時間だ。それ以上になるとエル=ポルベニルで立ち往生する羽目になる」
 八時間は長いようでけっして長くはない。さらに攻勢強化とはいえ、現時点ではまだ総力戦状態ではないから、出力全開の状況下になれば、継戦時間はより短くなる。
「エル=ファシルから補給艦を出してもらうのは可能でしょうか?」
「エル=ファシルは燃料製造工場がまだ本格稼働していないから備蓄が乏しい。ドーリア星域方面に逃げてもいいが、そっちの跳躍宙域の方向に敵がいるんだろ? これが補給側としての意見だ。司令官に判断を仰いでくれ」
 
 取りあえずカステル中佐のペーパーと状況説明を爺様と参謀長に伝えると、二人の先達は唸り声を上げた。爺様達の考えているタイムアップよりも早かったという事か。

「部隊合流して総力戦に移行。敵に強力な一撃を与え、そのままダゴン星域方面に移動……逃走する。しかなさそうですが」
「シャトルを出してプロウライトに話を聞く手もあるが……恐らく捕捉されるな」
「敵のほうが戦闘艇の数が多く、制宙権は自陣近辺でしか維持できていない状況です。それにここからですと距離があります」
「第三部隊には離脱後通信を送る」

 結局このままの態勢をズルズルと続けていても何の解決にもならず、時間と物資そしてなにより人命をいたずらに失うことになる。爺様が決断を下し、モンシャルマン参謀長と俺とファイフェルに鋭い視線を飛ばした瞬間だった。

「敵部隊の後背七.三光秒に新たなる艦艇群検知! 数、およそ二五〇〇!」

 オペレーターの大声が戦闘艦橋だけでなく司令艦橋にも響き渡る。爺様は六四歳とは思えぬ鋭い身のこなしでメインスクリーンに向き直り、席に座っていたモンティージャ中佐は顔面蒼白で両手をデスクに叩きつけて立ち上がり、カステル中佐は頬杖をつき視線をメインスクリーンに向けたまま悪態をつく。モンシャルマン参謀長の目は糸鋸の刃のように細くなり、ファイフェルは銅像のように血の気を失って呆然としている。

 空気が一気に氷点下まで落ちたような雰囲気に、俺は逆に戸惑った。確かに敵の増援かと思わないでもなかったが、メルカッツほどの敵将が今更二五〇〇隻の増援を得られるのであれば、イゼルローン回廊や障害物が多いヴァンフリートのような宙域でもないのにわざわざ自陣の後背に呼び寄せるようなことはしない。ひっそりと時間をかけて驍回させ、こちらの後背に布陣させるはずだ。

 つまり初めから俺は原作やアニメでおなじみの、メルカッツ提督の戦闘指揮
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