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『彼』

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 学校よりも、日紅(ひべに)のうちの隣に立っている木よりも更に高く高く飛翔すると、『彼』はぐるりと周りを見回した。



 狭い町。人家は見果てぬように続くがその実ここがどれだけ狭いのか、彼にはわかる。



 ヒトは地に足をつけ、土から生まれたものを食べ、陽光をその身に浴びなければ生きてはいけない。一生のうちに関わる他人も、土地も、ひとつ所に縛られるのが運命(さだめ)。弱い身、狭い視界。



 『彼』はずっと、ここにいた。ここにこの町ができるずっとずっと前から。時に眠り、時に起き、そして日紅と出逢った。



巫哉(みこや)



と、日紅は『彼』のことを呼ぶ。



 その声は『彼』に温かく届く。それは日紅のこころだ。なんともくすぐったく思いながらも、『彼』は日紅を突き放せずにいる。



 長く生きてきたけれど、ヒトの前に『彼』が姿を見せたのは、日紅が初めてだった。



 あれはどれくらい前だったかーーー…などと考えるのもバカらしいほど、『彼』にとって日紅との出会いはほんの数日前の出来事と一緒だ。



「おぅい、黄泉(こうせん)よォーーー」



 ふいに、ぐふぐふという妙な笑い声とともに、『彼』の目の前に拳大の丸い玉が現れた。



 その玉は光の加減によって青にも赤にも見える。



 『彼』は一瞥(いちべつ)もせずに、まるで蝿でも叩き落すかのようにその玉をばちりと叩いた。



「な、何するんだ黄泉ーーーーッ!」



「うるせぇ。黙れ」



「機嫌が悪いな黄泉。ははァ…さてはおぬし」



 『彼』の鋭い爪が空を切って唸った。玉は間一髪でそれを避ける。



「なななな何すんだ黄泉!今の当たってたら死んでたぞ!」



「てめぇはしぶといから、そう簡単に死ぬか」



「相変わらず短気だな!…まだ何も言ってないのに…」



「てめぇの言うことは予想が出来る。大体、俺は機嫌が悪いわけじゃねぇ」



「例の女子(おなご)に振られたか?」



 再び『彼』の鋭い爪が唸った。今度こそ、玉の一部がひゅうと飛んでキランッとお星様になった。



「……………んな……………」



 既に球状でなくなった「もと」玉はあまりのことに絶句し、ぶるぶると震えだした。



「うるせぇ」



「こ…っ、このっ、覚えていろよ黄泉ッ!」



 すうっと玉の姿が掻き消えると、『彼』はフンと鼻を鳴らした。



 どいつもこいつも。俺がヒトの前に姿を現したのがそんなにおかしいか。



 …いや、違うと『彼』は思う。あれは『
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