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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第85話 アトラハシーズ星系会戦 その1
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あの手練れのメルカッツに加えて宙雷艇となると、些か稼ぐのに苦労しそうですが」
「なぁに、この程度の不利で尻尾を撒いたとなったら、あとでジュニアに『ウチの司令官は歳喰っただけの役立たず』と陰口を叩かれるじゃろうて」
 爺様は席から立ち上がり、逆にモンシャルマン参謀長へ席に戻るように指図すると、俺の肩を二度ばかり叩いた。
「負けない戦い方とはいかなるものか、若造共に教育してやろう。ファイフェル!」
「ハッ!!」
 困惑と恐怖の中にいたファイフェルが、爺様の声に文字通り反射的に背筋を伸ばす。

「艦隊全艦、急速停止。制動後、後進一杯。陣形を維持しつつ敵との離隔距離をとれ」
「ハッ! 艦隊全艦、現宙点急制動停止。後進一杯! 陣形変更なし離隔とれ」

 ファイフェルの声が司令部オペレーターを通じ、第一部隊各艦に伝わる。訓練が生きたのか五分も経たずに全ての艦が後進を開始する。だがそれに合わせるかのように、帝国艦隊は速度を上げて接近してくる。

「各艦デコイの操縦のみを切れ。同時に機雷を前方無制動射出。各艦三発」
「全デコイ操縦制御カット。麾下全艦機雷前方無制動射出せよ。各艦三発」

 これで各艦に追従していたデコイが制御を失い、部隊の前方へと投げ出されるような形となる。それに加えて各艦が機雷を無制動で射出する。無制動ということは投射したタイミングでの運動エネルギーと同一という事であるから、制御を失い等速で後進しているデコイとタイムラグで開いた僅かな空間を挟んでほぼ同一の動きをしている。
 デコイは制御を失っているとはいえ、重力波や熱源は艦と同等のモノを発しているから、帝国側のレーダーから見れば一六〇〇隻と八〇〇隻の部隊に分離した、ように見えるだろう。既に光学上で我々が八〇〇隻程度の小集団であることはバレているから、帝国側は恐れることなく進路を変更せずに突き進んでくる。

「のうジュニア。もし頬を殴られるとしたら、どちらが良いか?」
 まったく関係ないような爺様の問いかけに、俺は爺様に一度視線を向けた後、その向こうにいるモンシャルマン参謀長に向け……右正面に映る爺様用の端末画面を見て、答えた。
「左頬です」
「まぁそうじゃろうな。陣形を変更する。モンシャルマン、左後進しつつ密集隊形」
「移動。方位〇四三〇、仰角〇、速度そのまま。陣形、密集」
「全艦後進。ポイントXマイナス六.三三、Y・Zプラマイゼロ、速度そのまま。陣形変更、フォーメーションC」

 これで左翼後進しつつ、第四四高速機動集団はゆっくりとではあるが球形密集陣に変更される。長方形の粘土を左手に持って、右手でギュッと押しつぶすようなイメージだ。帝国軍右翼への砲撃密度は高くなるが、右翼は空っぽになる。
 ここで帝国軍の左翼部隊が急進でもしてくれれば、一斉射撃でその
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