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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第85話 アトラハシーズ星系会戦 その1
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に昇進すると専用の旗艦が皇帝より下賜される。そして下賜された艦の所有権は帝国軍であっても、本人の同意なしに取り上げられることはない。つまりはこの時期において、戦場で一番会ってはいけない帝国軍の将帥が正面にいることになる。

「司令官閣下!」
 俺は自分の席を立ち、できる限りの速度で爺様の傍に駆け寄った。目と口で三つの円を作るブライトウェル嬢や、緊張で体が半分硬直しているファイフェルを他所に、俺は爺様の左隣に立つと、正面メインスクリーンを指差して叫んだ。
「直ちにスパルタニアンの全機発進準備をお命じください!」
「……そんなに近くで叫ばんでも、儂ぁ、まだ耳は遠くないぞ」
 わざとらしく爺様は自身の左耳を手で叩いた後、そのまま腕を伸ばして俺の右肩をがっちりと掴み、小さくそして力強く前後に揺らす。俺を見るその顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
「まず息を一度入れよ。その後で手短に理由を説明せい」
 俺の右肩に食い込むような手に力が込められたのが、ジャケット越しにもわかる。言われた通り、俺は一呼吸した後、爺様の端末にシミュレーション画像を映し出して説明する。

「戦艦ネルトリンゲンがいるということは、敵の指揮官は恐らくはウィリバルト=ヨアヒム=フォン=メルカッツ『中将』と思われます……」

 メルカッツ自身の歴戦の宿将であり、データでは確か『まだ』中将。五〇歳だったと思うが堅実で隙が無く、常に理にかなう戦術をとる。それは目の前に映る戦列・陣形を見るだけではっきりとわかる。エル=ファシルで去年ぶつかった奴らとは比較にもならない。その上で敵戦力は、その重厚さから想定するに、彼の子飼いとも言える部隊である可能性が極めて高い。
 彼の得意とするところは、理にかなった砲撃運動戦もさることながら、宙雷艇のような小型戦闘艇の集中運用による近接撹乱戦。ということは、宇宙母艦と『思われる』艦艇にはワルキューレだけではなく、宙雷艇が搭載されている可能性が極めて高い。
 
「以上のことからこちらが少数と判断した敵将は、戦艦や巡航艦による正面砲戦を選択しつつ、我々の左右いずれか、あるいはその両方から宙雷艇による近接戦闘を挑んでくるものと思われます」

 宙雷艇母艦は一隻につき三〇隻程度を搭載しているだろうから、最大で一五〇〇隻以上の宙雷艇となる。それに戦艦や巡航艦が搭載しているワルキューレが直衛に加われば、近接打撃力は途轍もないものになる。
 対抗するには数的不利を承知でスパルタニアンを先手で発進させ、宙雷艇の接近襲撃を防がなければならない。少なくとも味方の部隊が、敵部隊の後方に到着するまでは。

「参謀長。儂らに必要なのは時間じゃな」
俺の進言を聞き終えた爺様は、俺と席を挟んで反対側に立つモンシャルマン参謀長を見上げて言った。
「左様です。しかし
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