変な客
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「ふあぁ……」
大きな欠伸。
本来の体であることを噛みしめながら、可奈美は誰もいないラビットハウスのホールを見渡した。
昼食時は多少人がいたが、ピークタイムを過ぎた平日は退屈そのものであった。
「疲れてるね、可奈美ちゃん」
にやにやと机で座っているのは、可奈美より年上の少女。
可奈美と同じく明るい顔をした少女。黄色のシャツと、褐色の髪が特徴の立花響は、注文していた定食を平らげ、満足気に背もたれに寄りかかった。
「そうだね……昨日まで色々と大変だったから」
可奈美はカウンターに突っ伏しながら言った。
「わたしでよかったら、話聞くよ?」
「ありがとう響ちゃん。でも……」
「でも?」
「ごめん、ちょっと……というか、かなり恥ずかしいかな」
可奈美は頬をかいた。
「ええ〜? ちょっと気になるなあ」
「いやあ、それは……」
可奈美が返答に困っていると、その頭上にふわふわとした感覚が乗った。
目を上げれば、ラビットハウスの看板ウサギ、ティッピーが可奈美の頭上でくつろいでいた。
「ティッピーティッピー、こっちにおいでー」
響がティッピーへ人差し指を向けた。
そのまま、催眠術を行うように人差し指を回すと、ティッピーは「ううう……」と掠れたような声を上げながら響へ近づいていく。
そんなティッピーの頭に手を乗せた響。すると、すぐにその表情が緩んだ。
「うわ〜……もふもふだ……」
「だよね! 分かる!」
可奈美は同意して、後ろからティッピーの体を撫でる。
前後双方から撫でられながら、ティッピーは笑顔を見せる。
「チノちゃんはいつも、このティッピーを頭に乗せてるんだよね?」
「うん。あと、チノちゃんはティッピーですっごい腹話術もできるよ」
「腹話術かあ」
響はティッピーを抱え、自らの前に置く。数回頭を撫でた後、自分の口を手で隠した。
「わ……わしはティッピーじゃ」
「響ちゃん、こっちから口動いてるの丸わかりだよ」
「ええッ!? つまり、出来てないってこと? うーん……腹話術って難しい……」
響は左右からわしわしとティッピーを撫でまわす。
一瞬、チノの腹話術音声が「ふわああああ」と悶えるような声が聞こえたが、まだ学校の彼女がここにいるわけがないと、可奈美は考えなおす。
その時、ラビットハウスの呼び鈴が鳴った。
可奈美の体には、剣術の教えがいやというほど染みこまれている。同じように、ラビットハウスでの接客術も身に染みていた。
「いらっしゃいませ!」
可奈美は元気よく挨拶。
響も、可奈美が接客している間は口を挟んだりしない。静かに、やってきた客へ振り向いていた。
やってきたのは、背の高い青年
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