第84話 死地へと送り込む
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が構築されていく間、俺はあえてシャトルでフィンク中佐とユタン少佐を旗艦エル・トレメンドへと呼び寄せた。想定される現在の戦況図、自軍のこれからの行動と推測される敵の反応を聞いただけで、俺が与えられる任務を口に出す前に、二人は察したようだった。
「ありがとうございます。ボロディン少佐」
司令官公室。しかし持ち主である爺様も、参謀長も、副官もいない。ようやく耳に届くくらい僅かな空調の音と、俺の右後ろに立っている従卒が淹れた珈琲の匂いが静かに漂う中で、フィンク中佐は俺の向かいのソファに座りながら深く頭を下げて礼を言う。
「第八七〇九哨戒隊がこれまで鍛えた能力の全てを挙げて、見事任務を果たして御覧に入れましょう。そうビュコック司令官閣下にお伝えいただけますでしょうか」
「それは勿論です。ですが、お礼を言われるようなことでは……」
俺はアンタ方に『八割ぐらいの可能性で死ね』というに等しいことを言っているんだぞと、言外に言ったつもりだったが、言われた側の顔色は死地に赴く悲壮感の欠片もないものだった。
「何をおっしゃいますか。ボロディン少佐は第四四高速機動集団に数多といる巡航隊や哨戒隊の中から、我々を特に選んで集団の命運を委ねて頂けたわけです。その栄誉、これに過ぎたるはありません」
「しかし……」
「我々はこれまで偵察哨戒とは何たるかを常に考えて訓練し、鍛えておりました。その実力を存分に発揮できるとなれば、文句を言うなど烏滸がましいと言わざるを得ません」
フィンク中佐もユタン少佐も司令部から与えられたこの任務で死ぬ。確実ではないが、そうなる可能性は高い。こちらの戦術的意図を理解した上での了承。エル=ファシルで、そしてアトラハシーズで。結局のところ、情を逆手にとって、俺は彼らを都合のいい『弾除け』扱いしているのではないか。
「第八七〇九哨戒隊の燃料タンクと酸素タンクは全て満杯にします。カステル補給参謀が最優先で手配をかけてますので、帰艦後、支援部隊方向へ配置移動を願います」
澱のようなものが一秒ごとに腹にたまっていくのを感じつつ、俺は二人から目を逸らすことなく説明を続ける。それで何かが救われるわけでもないのに。
「陽動作戦終了後、第八七〇九哨戒隊は第四四高速機動集団の編制より外されます。ビュコック司令官閣下より、先任指揮官独自の判断により戦線離脱を許可するとのご命令です」
胸ポケットに収めていた命令書をフィンク中佐に手渡す。フィンク中佐の指紋照合によって封が切られ、中佐は中身を読み、読み終わった後はユタン少佐に手渡す。
「命令書、確かに受領。了解いたしました」
「陽動作戦に特段必要な物資がございましたら小官かカステル中佐にご連絡ください。可能な限り便宜を図るようにいたします」
「承知いたしました……今のところ燃料や
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