見滝原大学
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久しぶりの自分の体。
なかなか体験しない心の声に、ハルトは思わず笑みが漏れた。
ほんの二日間、可奈美と体が入れ替わっていただけなのに、そんな印象を持つ自分に思わず吹き出してしまう。
ハルトは肺に空気を多く吸い込み、青空を見上げた。
「久しぶりに来たけど……結構、変わったんだな」
ラビットハウスとは少し離れたその地区。
川岸に近いその場所に、ハルトは静かに花を置いた。
かつては大きな病院があったその場所。
今は、再開発として大型の建物が建造中のようだが、その前にある慰霊碑を、ハルトは静かに見下ろしていた。
___見滝原中央病院 慰霊碑___
「……」
しばらく無言を貫くハルト。
やがて。
「ハルトさん……?」
その声に、ハルトは振り向いた。
真っ先に目に入ったのは、桃色。
本人のトレードマークと同じくらい、桃色の少女。結城友奈が、ハルトが置いたものと似たような花を持っていた。
「友奈ちゃん? どうしたの?」
「うん……色々一段落したし、今日お休みをもらったから、ちょっと会いに来たくなったんだよ」
友奈はそう言って、ハルトが置いた花束の隣に自身が持ってきた花を置いた。
静かに慰霊碑の前で手を合わせ、目を閉じる友奈。
「……友奈ちゃんは、時々来てるの?」
「たまにね。ハルトさんは?」
「俺は……あまり。可奈美ちゃんは時々来てるみたいだけど」
ハルトはそう言いながら、慰霊碑に刻まれている名前のところに手を触れる。黒い石で作られた名簿に、所せましと名前が並んでいたが。
「孤児や、戸籍のない子の名前はないか……」
「でも……きっとここで、わたしたちのことを見ているよ」
友奈は静かに、だけど力強く言った。
その言葉を受けたハルトは、静かに顔を下げ、やがて立ち上がった。
「……もう、行こうかな。友奈ちゃんは?」
「うん……わたしもそろそろかな」
友奈は頷いて、改めて慰霊碑へ手を合わせる。
「それじゃ、また来るね」
「俺も……また来るよ」
ハルトも小さく慰霊碑へ語り掛ける。
友奈とともに慰霊碑を後にしたハルトは、外の駐輪場に停めてあったマシンウィンガーのハンドルを手にする。
「友奈ちゃん、この後どうするの? よかったら送ろうか?」
座席を開き、中から予備のヘルメットを取り出した。
「ありがとう! だったら、このままラビットハウスに行きたい!」
両手でヘルメットを受け取った友奈は、そのままハルトの背中にしがみつく。
「はい。大体十分くらいかな」
ハルトはそう言って、マシンウィンガーにアクセルを入れる。
あの雨の日、この道路を急いだ記憶が嫌でも蘇ってくる。
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