第83話 サインとサイン
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エルヴェスダム氏を、俺は微笑みの仮面で見据える。本来であれば彼のような反応がまっとうな人間のあるべき姿だろう。だが残念なことに人の命がかなりお安くなっているこの時代においては、かなり異端ではある。
もっともイゼルローン回廊の向こうには、姉を皇帝に奪われる理不尽に立ち向かう為に、数千万人の犠牲者を出して宇宙を奪おうとまでするとんでもない奴もいるが、それに比べればはるかにマシだ。マシだと思いたい。
「ボロディン少佐。頼みがある」
そういうとエルヴェスダム氏はジャケットの胸ポケットから、少し縒れた例の手紙を取り出し開いて俺に手渡す。
「これにアンタのサインも追加してくれ」
「それで価値が上がるとは思えないですが?」
「価値のあるなしは他人ではなく、俺が決めるからいいんだよ。来月にはこの世からいなくなるかもしれない奴の証ってのを、貰っておくのも悪くないと思ってな」
ホレホレと目の前で揺らす例の手紙を俺は受け取り、ヤンの隣にある狭いスペースに自分の名前を書き加えて返した。
「縁起でもないことを言いますね」
俺が溜息交じりにそう応えると、エルヴェスダム氏はしてやったりといった表情で俺に言った。
「だいたい縁起を担ぐような玉じゃないだろ、アンタは」
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