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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第83話 サインとサイン 
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はや不可能だ。もし漏らしたとしてもすでにダゴン攻略本隊はシヴァ星域に達しており、帝国軍が本国より増援を呼んだとしても時間的に間に合わない。

「……いつも思うんだが、職業軍人というか、士官というのはどうしてそんなに命知らずなんだ?」
「と、言いますと?」
「四月中旬といえばあと三箇月もない。死ぬかもしれないって言うのに、どうしてそう平然としていられる」
「別に平然としてはいないと思いますが?」
 旗艦エル・トレメンドの艦内でも、ストレスで胃薬を手放せない士官や逆に過食症になる士官だっている。死に対しては誰だって臆病になるものだ。一度死んだことのある俺が言うのもなんだが。
「俺が言いたいのは、アンタやヤン=ウェンリーみたいな奴のことだ」

 そういうとエルヴェスダム氏は大きく溜息をついた後、三重窓の縁に腰かけ軍のシャトルが降下し始めた惑星エル=ファシルを見下ろした。

「ヤン=ウェンリーはきっと覚えちゃいないだろうが、俺はリンチの野郎が逃げ出す前に一度会っている。その時に奴は、俺に防衛艦隊の陣容を聞いてきたんだ。簡単にレーダーとトランスポンダーの情報を渡してやっただけだが、受け取った奴の顔色は全く変わってなかった」

 時折その言葉に舌打ちが混じる。

「まるで逃げ出すのは了解済みといった表情だ。四〇〇〇隻近い帝国軍が星系内を遊弋していて、逃げ出す船団は海賊撃退程度の軽武装しか積んでない客船が数隻で他は非武装って有様なのに、なんで平然としていられる」
「ヤン=ウェンリーはそれなりに肝が据わっている男ですからね。すべて計算づくでしょう。だから彼は『英雄』なんです」
 実際のところ、そんなことを考える暇もないほどにヤンの脳味噌はフル回転していたと言ったところだろう。英雄と呼ばれることを忌み嫌うヤンではあろうが。
「『英雄』ね。なりたいとも思わんが」
「なりたくてなるものではないですからね」
「アンタはどうなんだ? 『英雄』になりたいのか?」
「なりたいと思った途端に、死神とお友達になれますよ。ごめん被りますね」
「……よくわからんな。じゃあなんでアンタは熱心に軍務以外にも尽くすんだ? モンテイユ氏もロムスキーさんもアンタの献身には一目も二目も置いている。出世欲や名誉欲が目的でなくて、そうしてそこまでする?」

 それは究極的には一〇年後、自由惑星同盟が金髪の孺子に滅ぼされない為。その為の出世も目的の一つではある。だが……

「エルヴェスダムさんと同じですよ。英雄になりたくてエル=ファシルの支援活動をしていたわけじゃないんでしょ?」
「流石に命を天秤にかけて、人を殺してまで支援活動をしようとは思わねぇよ」
「そこは職業の違いと思っていただければ」
「訳が分からねぇな。本当に職業軍人って奴は」

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