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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第83話 サインとサイン 
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不在なんですか?」
「アントニナは貴官と同い年で、フレデリカ=グリーンヒル嬢と一緒に去年士官学校情報分析科に入学した。だから今日は来ていない」
「あぁ、そうなんですね……」

 ブライトウェル嬢の口調が一気にツンドラ方向に変化したのを、ウィッティをして鈍いと言われ続ける俺でも流石に理解できた。一六歳とは思えない狼のような剣呑さ。人には見えない舌が彼女の上唇を這っているように感じるのは、きっと気のせいではないだろう。

「どうやら今年の八月から楽しい日々が、私を待ち構えているような気がします」
「……随分と自信たっぷりだな。もう合格した気でいるのか?」
 あえてその剣呑さを諫めるつもりで挑発的に俺がそう問うと、嬢は一度俺の顔を見て足を止めた後、小さく肩を竦めてから応えた。
「第四四高速機動集団の充実した家庭教師陣のご指導は、世間一般の予備校とはレベルが違いますし……これで落ちたら死ぬくらいの覚悟で勉強してますので」
「そこまで覚悟することか?」
「どんなに事を尽くしても完全はないのは少佐殿がいつも仰っている通りですが、その覚悟がないと私のような怠け者は現状に甘んじてしまいそうなので」
「どの学科を受験する?」
「戦略研究科と陸戦技術科と情報分析科です」
「それは……」

 それは女性が受験する学科としてはやや異端な選択だ。情報分析科は上級オペレーターや航路管制や、原作のフレデリカ同様に上級幹部の副官といった職種もあるので女性の志願者も合格者も多い。女性の軍人と言ったら、まず情報分析科か、後方支援科か、法務研究科か、というのが定番だ。

 陸戦技術科は地上軍の幹部士官の養成が主であって、女性の合格者は毎年片手の指以下と言っていい。四〇〇〇人以上入学する同盟軍士官学校でも陸戦技術科は定員四五〇名。もうなくなってしまった戦史研究科と、戦略研究科に次いで募集人数が少ない。特に体力カリキュラムが激烈で、三年次までは共通科目もありなんとか乗り切れても、四年次以降の実習・演習で脱落し、転科するか退校する候補生がかなりいる。

 戦略研究科は卒業した自分が言うのもなんだが保守的で古典的な集団だ。地球時代から一〇〇〇年は経過しているにもかかわらずずっと変わらない男性エリート中心主義。性差などないと言いながら自由惑星同盟軍創立以来、統合作戦本部長・宇宙艦隊司令長官・制式艦隊司令官に女性が着任したことはない。後方勤務本部長や統合作戦本部下内勤の各部長クラスにはそこそこいるのにもかかわらず、戦闘部隊指揮官で『大将』になった女性は、『名誉ある英雄』だけだ。

 そして士官学校の受験システムにも問題がある。

 筆記試験内容は全学科共通。筆記試験の点数に応じて入学席次が決められる。三つまで併願は可能で、席次上位者の希望順に各学科が埋められて
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