第一章
[2]次話
繁栄の限界
十九世紀イギリスは世界帝国として人類史上最大の領土とこれ以上はないまでの栄華を手にしていた、この世の富を全てその手にしているかの如きだった。
その為この国の支配層である貴族達は確信していた。
「我が国に出来ないことはない」
「富は無限にもたらされる」
「我々に手に入れられないものなぞない」
「大英帝国に不可能なぞない」
こう確信し栄華を楽しんでいた、それは宮中でも同じであり。
他の国にはない贅沢で溢れ返っていた、その中心にいるのは言うまでもなくこの国の主であるヴィクトリア女王である。
小柄で地味な外見の女王は豪奢な席に座り豪奢な服を身に纏い周りのものはどれもが世界最高のものだった、それは食事も然りで。
女王は夕食を食べた後で近侍の一人に問うた。
「今宵の食事ですが」
「如何だったでしょうか」
「最高のものですね」
「はい、その食材も調味料もであり」
近侍は女王に答えた。
「食器もです」
「今宵の食器はまた違いますね」
「清の皇帝が贈ってきたものです」
それだというのだ。
「それをです」
「用いたのですね」
「スプーンやナイフもです」
銀のそれもというのだ。
「今宵のものはマールボロ公が造らせた」
「特製のものですか」
「はい」
そうだというのだ。
「そうなっています」
「全てが違いますね」
「我が国はこの世の富の全てを集め」
そしてというのだ。
「これまでのどの国よりも栄えています」
「そして私はですね」
「その国の主であられるのです」
女王に恭しく話した。
「ですから」
「食事もですね」
「まさに身の回りの全てのものが」
それこそというのだ。
「特別なものです、そして女王陛下が望まれれば」
「どの様なものでもですか」
「手に入り」
そしてというのだ。
「為されたいこともです」
「為せるのですね」
「まさにこの世は女王陛下のものです」
繁栄を極める大英帝国の主である彼女のというのだ。
「この世で手に入れられない為せないものがあるか」
「それは何もないですか」
「左様であります」
近侍は確信を以て言い切った、だが。
女王は考える顔になってだ、その侍従に話した。
「ではです」
「ではとは」
「ここにドリアンを持って来て下さい」
女王は静かな声で言った。
「今すぐに」
「あの、それは」
近侍は女王のその言葉に申し訳のない顔で述べた。
「ドリアンは今は」
「ここにはないですね」
「先にマレーから来た船に積んでいましたが」
それでもというのだ。
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