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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第82話 参謀の美しくないおしごと
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ので、怪物が地域社会開発委員会の官僚に手を廻したというところだろう。声だけは大きい二〇数人程度の賄いなど奴にとっては小指を動かすようなもので、ロムスキー氏とエル=ファシル住民に恩と引き換えの票とエル=ファシル星域の議席が得られれば容易いことだ。

 船舶の手配から住民の乗降割り振りに関しては、ロムスキー氏の特別顧問となったエルヴェスダム氏が一手に引き受けている。膨大な情報処理が必要であり軋轢もあるが、キレた彼のこちらが見ても引きそうになる程の熱量でこれを粉砕し整理していく姿を見れば、彼は管制官が天職なんだと理解せざるを得ない。

 モンテイユ氏からは会う度に第四四高速機動集団の本来の目的を問われる。いずれ分かることだが機密解除になるまでは俺の口からは話すことはない。それに怒りそうになるモンテイユ氏をエルヴェスダム氏がなだめ、零れる恐妻の愚痴を、『結婚できるだけありがたいと思え』の一言で封殺する一連の劇を何度見たことか。

 そんなこんなの年末ではあるが、一応新年当日は法定休日になっており、月月火水木金金の第四四高速機動集団司令部も『最後になるかもしれない』休みを部下にはとらせた方がいいという配慮で、その前日である今日と明日は全休日となった。

 だが司令部には当然外部からの容赦ない連絡は来るので留守番が必要になり……俺がひとりぼっちで誰もいなくなった司令部オフィスに詰めることになった。なんならブライトウェル嬢も残りたがったようだが、上は爺様から下はファイフェルまで全会一致で、母親の下に帰宅しガッチリ四八時間休むよう命じられ、カステル中佐に文字通り背中を押されて無人タクシーに放り込まれていた。

 しかし来客というものは、ないと思ったタイミングで来るものだ。本来ならブライトウェル嬢が受け答えするヴィジホンが鳴り、嫌々俺が出るとそこには懐かしい人が映っていた。すぐに扉を開けて招き入れると、おそらくこの世界に来て一番に尊敬する『師』は、四年半前と変わらぬ紳士ぶりだった。

「あちらこちらでかなり活躍していると、シトレ中将閣下から聞いているよ」

 俺が下手に淹れたPXの安物紅茶を以前と変わらぬ穏やかな表情で、階級章の星が一つ増えたフィッシャー大佐は悠然とティーカップを傾けた。士官学校を出てすぐに何故か査閲部に配属され、その査閲部の直上の上司として仕事だけでなく艦隊運用についての手ほどきをしてくれた『師』が、留守になっているであろうこんな年末の年越しのタイミングで来るのか。フィッシャー大佐はその裏をあっさりとばらしてくれる。

「大佐もお休みであったでしょうに、シトレ中将閣下もお人が悪い」
「いやいや、私も貴官に会いたかったから丁度良い機会だった。幸い今は宇宙艦隊司令部でも内勤だからね。来月には出征する貴官と比べるまでもないよ」

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