第82話 参謀の美しくないおしごと
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るサインの名前が尋常ではない。
「なるべく証拠とかは形に残さないようにしておく方がいいとは思いますけどね」
「……くそくらえだぜ。まったく」
ポイと紙を机に放り投げ、エルヴェスダム氏はぼさぼさの髪を掻きむしると、盛大に舌打ちした。
「絶対死ぬと思ってたし、帝国軍の奴らが見つけて笑い話にでもすると思ってたんだけどな」
はぁ〜という溜息のあと、氏は席を立ち、冷蔵庫からビール缶を取り出し、一気にその中身を呷る。あっという間に中身のなくなった缶を片手で握りつぶす。軟な素材とはいえ、中々の握力に俺は些か驚いたが、縦から潰せる人達を両手の指の数以上知っているだけに怖いとは思わなかった。
「いいだろう。脅迫に乗ってやるよ」
「ありがとうございます」
椅子に座りなおしたエルヴェスダム氏が腕を組んでそう応えると、俺は逆に立ち上がって氏に敬礼した。元航路保安局員の癖なのか、氏も同じように敬礼しそうになったが、手が肩の高さまで届いたところで舌打ちして、手を下ろし、俺に出ていくよう手を振る。
俺もそれに従いボロアパートの玄関まで出たが、一つ思い出して氏に言った。
「ちなみにソレ、捨てないほうがいいですよ。あと六・七年もすれば、相当価値が上がると思いますから」
「分かってるさ」
吐き捨てるような声が、見えない扉の向こうから聞こえてくる。
「だいたい売れるわけねぇだろ、こんなもん」
その声に俺は苦笑を隠せず、ゆっくりと扉を閉めるのだった。
◆
一二月三一日
世間は新年を迎えるそわそわした雰囲気の中で、第四四高速機動集団司令部の侵攻への準備は猛スピードで進んでいる。エル=ファシル帰還船団が三梯団に分かれることは既に決まっているので、護衛艦隊として旗艦部隊(ビュコック直卒)および第二(ジョン=プロウライト准将) と第三(ネリオ=バンフィ准将)が、それぞれ分担することになる。
特殊法人の方はそれにも増して忙しさがあるかと思えばそうでもない。それまでバラバラな職能代表の寄せ集めだった住民代表団が『エル=ファシル住民評議会』という名前で統合され、フランチェシク=ロムスキー氏がその代表となって実務担当の中央派遣官僚集団と直接交渉を行い始めたからだ。ソゾン=シェストフ氏をはじめとする特別法人代表部は元政治家と元地方官僚の二つに分割され、地方官僚側が住民評議会の組織部として組み込まれた。
シェストフ氏にとってみればクーデターを喰らったようなものだが、氏をはじめとした元政治家や住民評議会の組織下に入りたくない地方官僚はハイネセンに残ることを選択したらしく、以降統括会議に姿を現していない。どうやら地域社会開発委員会が彼らに対し顧問・参事官職を提示したとモンテイユ氏から聞いた。どう考えてもサンフォード氏の仕業とも思えない
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