第82話 参謀の美しくないおしごと
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がある話ではない。リスクの取りようを、彼自身で決められると錯覚してくれる程度には。
「それと元勤務者の方で、一緒に働ける方も声をかけてあげてください。流石に統括職はエルヴェスタムさんでないと無理ですが、復職に関してお手伝いは出来ると思います」
「支援グループは解散したし、今でも本局に残ってる奴らは、別のところに転属になった。ハイネセンで別の職業についている奴もいるが……仕事を辞めてまでエル=ファシルの為に働こうって奴はいないだろ」
「見ている人は見てますよ。ロムスキー氏もエルヴェスタムさんを見込んで、いろいろお話を持ってきているでしょう?」
これはロムスキー氏本人からの情報。氏は氏なりに恐らくは善意から、エルヴェスタム氏の性格を十分理解している。有能な人材であることは誰の目にも明らかなのに、良くも悪くも行動に対する性格の影響が大きいことも承知の上だろう。
「ロムスキーさんには、あくまでも俺はハイネセン人だって言ってるんだけどな」
「人は生まれた場所ではなく、何をなしたかで評価されるんですから、戯言は耳栓でもして聞き流せばいいんです」
「ボロディン少佐って言ったか? アンタ、俺より年下のくせに言うじゃねぇか」
実際は実年齢プラス三〇年弱なんだという必要はないが、エルヴェスダム氏の俺を見る目には明らかに侮りが含まれている。『俺の苦労も知らねぇで』、といったところだろうか。だが俺も大した戦歴でもないが、これでも一応戦火の中を潜り抜けてきたという自負はある。
「人生は一度きりです。少なくとも私の同期はもう一五パーセントはこの世にいません」
「……きったはったの戦場にいるからって、民間人に偉そうにするのは軍人の良くねぇところだぜ」
「死んだ彼らが、彼ら自身の持つ能力を生かし切って死んだとは言い切れません。残念ながらね」
「俺を高く評価しているつもりなんだろうが、性格が向いてないことぐらいは分かっているつもりだぜ?」
「ジェシーさんは男を見る目はあったかもしれませんが、漢を見る目はなかったと思いますよ」
ガツンとエルヴェスダム氏の両拳が机に振り下ろされ、ビール缶や使い捨てのプラプレートが小躍りする。俺を見る目には、怒りが溢れているようにも見えるが、その陰に後悔や怯懦、そして自己正当性が見え隠れしている。眉間の皺もピクピク動いているが、昔の彼女を嘲笑されたという怒りが原動力でないことは明らかだ。
そういうわけで、俺は胸ポケットから『切り札』を出す。
「もし一歩踏み出すのに臆しているのであれば、ヴィクトール=ボロディンに脅されたからだと思えばよろしい」
俺が差し出した紙を勢いよく右手でもぎ取り、乱暴に開いて文面を見て……顔色がせわしなく変化した。脅迫状としては大した威力があるわけではないが、書いてあ
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