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ケージの中から吠えても
第一章

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               ケージの中から吠えても
 国咲家の愛犬ふわりは今は自分のケージの中にいる、それでだった。
「ワンワン」
「ふわり吠えてるな」 
 家の父である文太はリビングでくつろぎながらキッチンで食器を拭いている妻の百合子に対して言った。
「何かあったのか」
「わかってるでしょ」
「ああ、ケージの中から吠えてもな」
「まずはね」
「相手にしないことだな」
「そう、こうした時って何かをして欲しくてね」
「呼んでいたりするな」
「それでケージに行くとね」
 自分達からというのだ。
「命令を聞いたと思って」
「自分より下だと思うな」
「犬って上下関係で成り立つでしょ」
「そうした生きものだよな」
「だからね」 
 そうした習性だからだというのだ。
「トイプードルも犬で」
「しかも元々狩猟犬だしな」
「そうした意識は強い方だと思うから」
「ここはな」
「まずはね」
「無視することだな」
「そうしているとね」
 妻は夫に家事を続けながら話した。
「犬の方からよ」
「来るな」
「そして頼んでくるから」
「頼まれるまでだな」
「無視することよ」
 まずはというのだ。
「いいわね」
「そうすることだな」
「命令を聞くんじゃなくてね」
「お願いに応えてやるだな」
「そうしたらね」 
「犬も上下関係がわかるな」
「ケージの扉は空けてるから」
 ふわりが何時でも出来り出来る様にだ。
「後はね」
「待つことだな」
「ふわりが出て来るのをね」
 こう言ってだった。
 百合子は何もないといった風に家事を続けた、ふわりは暫く家族を呼ぶ様に吠えていたがそれでもだった。
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