20,hole
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線が俺の全身をとらえていく。
「……」
騎士はそれから、俺と岩に引っかかっているロープを交互に見比べた。
それから、ゆっくりとしゃがみ込み、再度沈黙のままにこちらを見つめている。
「おい、金なら払うぜ。頼むよ、俺AGI型だからのぼるの厳し―――」
その瞬間、ガクンと世界が揺れた。
男の横の岩がポリゴン片となり、四散してゆく。
拠り所を失ったフックがふわりと空中に浮きあがった。
ゆったりと、重力を感じて俺の体が落ちていこうとした時、再度張力が働いた。
「―――っ!!」
思わず上を見上げると、男が岸壁から身を乗り出し何とかロープの一端を掴んでくれていたのだった。
「助かったぜ、とにかく……ありがとう」
帰ってきた地上に寝そべりながら、俺は謎の騎士に礼を言った。
筋力値が高いビルドの様で、俺を引っ張り上げた後でも騎士は息すら荒れていない。
「なあ、俺は取りあえず街まで戻るけど、あんたはどうするんだ。街に行くならいっぱい奢るぜ」
「…………」
騎士は無言で向きを変え、迷宮区の方にゆったりと歩いていこうとした。
あ、けどあの方向はマズイな。俺は近場にあった拳ほどの石を適当にそいつの進行方向に投げこんだ。
「…………!!」
騎士はさっと距離を取ると、腰の片手剣に手を触れ抜刀の構えを取った。
反応速度も速いし、そうとう出来るようだ。だけど、攻略組にこんな鎧の奴いたっけか?
「まあ、そう構えるなよ。あと、後ろを見てから俺が敵かどうかを判断してくれ」
そういって、俺はゆっくりと、距離を保ちながら移動した。
敵だと思ってるなら、背後を取る位置はあらぬ誤解を誘うからだ。
騎士は俺の意図を把握したのか、こちらの動きに合わせて体の向きを変えていく。
そして90度ほど向きを変えたところで、ピタリと動きを止めた。
そりゃそうだ。
さっきまで何もなかった荒野に小さな毒沼が出来上がっているんだから。
「その程度なら命の危険はないけど、俺の引っかかったレベルの落とし穴もそこそこ存在する。で、どうするんだ?」
騎士は数秒考え込み、そして元来たであろう道を歩き始めた。
俺も横に並ぼうとしたが、騎士は歩みを速めて先に行ってしまう。
俺が諦めると、それに気が付いて少しだけペースを落とす。
再度、スピードを上げるとあちらは走り出してしまった。
まったく、変わったやつだ。
つかず離れずの距離を保ちながら、俺たちは街への道のりを歩いて行った。
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