暁 〜小説投稿サイト〜
SAO−−鼠と鴉と撫子と
20,hole
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
飛び上がる。不安定な格好からなので、僅かにしか距離を稼げなかった。その間に着地すべき場所は次々と漆黒の闇が広がっていく。
いつの間にかさっきいた場所を中心に俺の前方10メートルほどまで大穴が出現していた。

――広範囲落とし穴(デモンズ・ゲート)。数メートル上空から見ると、その名の通り地獄の悪魔が口を開いている様に見えなくもない。
当然のように底は見えず、漆黒のポリゴンが覆い隠している。一層下まで続いているとも言われるのも頷けるというものだ。

昼の光を大穴ギリギリで残っていた岩が反射し、不気味な光沢を帯びた。
まるで、生贄をさらに一人食い殺さんと悪魔が目を光らせたように感じたが、生憎とそう易々と食われてやるほど俺もアホじゃない。

「ッチィ」

非常用で用意しておいたロープ付ナイフを咄嗟に投擲した。
切っ先がL字型に曲がったリズベット特注の逸品は予定通りの弧を描き、ガチンと悪魔の瞳に引っかかる。

窪みにしっかりと引っかかってくれなきゃ……

死ぬ。

なす術もないまま俺はそのまま大穴の中に吸い込まれていく。
蛇行していた茶色の線は一直線に伸びた。本来ならば重さに引き絞られてロープが伸びるはずだが、まだこの世界はミリ単位の伸縮は対応できない。

出来るのは零か壱かの情報変化。すなわち――死ぬか、生きるか。

ガチガチ、ガチガチ。

頭上で大きな音が響く。
頑張ってくれ、乗り切ったらピカピカに磨いてやるし、強化もしてやるから。

ガチン。

一際大きい音が反響し、降下は止まった。ひとまず、生き延びられた運に感謝だ。

左腕でしっかりとロープを握りしめ、張りつめていた息を吐き出した。
そのままゆっくりと地平線を見上げると、穴からは10メートル以上もたたき落とされてしまっていた。

ロープの長さを短くすればよかったとも思ったが、短いとそもそも助かってない。

文句ばかりも言っていられないが、これを上っていくのかと思うと心が折れそうだ。
鉤爪も、岩も、俺を支えるこのロープにもシステム的な耐久値は無論存在する。
ロープと鉤爪の耐久地は約10分。それより先に岩が破損するかもしれないことを考えれば、時間の猶予はあまりない。

よっしゃ、と腕に力を入れようとしたとき大穴に届いていた光が何かに遮られた。
モンスターのポップかと思って上を見上げると、そこにいたのはこの層を守るオーガ、とは別の姿だった。

フルプレートのアーマーとアーメットで完全武装した中世騎士を思わせるシルエット。そのせいで、顔はおろか皮膚の一つも見ることはできなかった。
「すまん、ちょっと引き上げてくれないか?」
声を張り上げると、騎士は無言でコチラを向き、じっとみつめているように感じた。

戦士ならではの鋭い視
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ