暁 〜小説投稿サイト〜
その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#02 "She grins from ear to ear"
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着くまでもう何体も見てきたお陰で耐性がついたか、今更驚きはしない。

制服の襟章を見せながら、此方に語りかけてくるレヴィの言葉に黙って耳を傾ける。

「コイツだけ制服が違うのが分かるか、ロック。
例の絵を持ち込んだ親衛隊員(SS)だな」

例の絵。

そう、俺とレヴィが今こんな海中にいるのは正にその絵を回収するためなんだ。

ドイツから遠くインドネシアまで日本海軍の将校を運ぶ目的で潜航を続け、目的地直前で米海軍に撃沈されてしまったこの艦と四十四名の軍人達。
だけど彼らにはもう一つ別の使命があったそうだ。
それは出港直前に国家保安部より下された命令。
一枚の絵とそれを持つ一人の親衛隊将校を運ぶ事。
金塊でもなく機密文書でもない、ただの絵画。
なぜそんなものをわざわざ将校に持たせて、潜水艦で運び出させるのか。
真実は分からない。
ただその将校が絵と共に乗り込んだのは確実な話、なのだそうだ。

「で、絵は? 近くにありそう?」

銃撃で傷付いてなければ良いんだけど、などと考えながらレヴィに訊ねる。
ここまで来て手ぶらで帰るのはあまりにも寂しい。
謎の将校殿も本当に居たわけだし。

「…コイツの傍には見当たらねえな。 金庫にでも隠してんのかもな」

そっけなく言葉を返してくるレヴィ。
彼女に愛想なんて求めるつもりはないけれど、もうちょっとどうにかならないものかな。
他のみんなはまだ優しいのだけれど。

それにしても…

「この人達って、やっぱり絶望のあまりに互いに殺しあったのかな」

二人の死体を等分に見ながらポツリと呟く。

海底数十mの海の中じゃあ助かる見込みは万の一つも無い。
閉じ込められた艦内では限られた空気も徐々に減り、電気もその内消えてゆく。
一瞬で訪れるのではなく、じわじわと迫りくるように襲ってくる死の足音。
その恐怖に耐えるくらいなら、いっそ………

「ふんっ」

「レヴィ?」

耳に届いたのは俺の戯画じみた感傷を一息で吹き飛ばす彼女の鼻息一つ。
そして俺に横顔を向けたまま話すレヴィの少しハスキーな声。

「んなもんねえよ。
絶望ってのはな、先に何もねえって事だ。
潜水艦に乗り込むような連中なら、 いざって時の覚悟は出来てる。 完全に望みが絶たれたとわかりゃあ、 却ってジタバタしないもんさ」

将校の死体から離れて、次に部屋の捜索を始めるレヴィの背中を眺めながら、俺はただ馬鹿みたいに突っ立てるだけだった。

先に何もない。

それが、絶望。

レヴィの言葉が耳の奥の方で繰り返されているような錯覚を覚える。

「それに潜水艦の乗組員といやあ、家族も同然さ。こんな狭っ苦しいとこで、 何ヵ月も一緒に過ごすんだぜ。もう死ぬしかねえって
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