第一章
[2]次話
Famme fatale
運命の人、そうした言葉はあるとは聞いている。
だが俺にはない、そう思っていた。
そんな中で仕事帰りにたまたま寄ったバーで隣に見たことのない美人を見た、その瞬間にだった。
俺は気障なことを言うが恋に落ちた、もう見ずにはいられなかった。だが声をかけるには俺はあまりにも勇気がなかった。
だから見ているだけだった、相手に変に思われない様にちらちらと横目で見るだけだった。知らない振りをしてカクテルを少しずつ飲むだけだった、その人が店を出るまでそうして俺も店を出た。
この日からそうして毎晩仕事から帰るとそのバーに行く様になった、するとその人はいつもバーのカウンターの席にいた。
右から五番目の席が指定席でいつもそこにいた、俺は出来るだけ近くだが空いている席に座って知らない顔をして適当に気分で注文したカクテルを飲むだけだった。
そうして一ヶ月位たった、毎日カクテルを少しずつ飲んでるだけでその人を見続けた、その人は大体七時から八時の間その席で静かに何も言わずモスコミュールを一杯飲んで帰る。俺はその間ずっとカクテルを飲むだけだ。
声はかけられない、名前も聞けない。それで横目で見るだけだ。俺は毎日一杯ずつカクテルを飲んで見るだけだった。俺が注文するカクテルは本当にその日の気分次第だった、モスコミュールだけの彼女と違ってとりあえず飲みたいと思ったやつを注文する、俺は仕事でも何かを買うにも迷わない性分だがカクテルを注文する時も同じだった。それにいつも彼女と同じものを注文して彼女に気付かれて変に思われるのも嫌だったからそうした。
そんな俺に職場で同期が言ってきた。
「最近毎日バーに行ってるらしいな」
「ああ、いい店見付けてな」
俺は彼女のことは隠して答えた。
「そうか、そんなにいい店なんだな」
「そうだよ」
「そうなんだな、俺は居酒屋が好きだからバーはいいけれどな」
「そうなんだな」
「お前が楽しむなら楽しんでこいよ」
「そうするな」
同期がバーに行く趣味がなくてよかったと思った、俺はいつも一人でバーに行って飲んで彼女を見た。それが三ヶ月になるとだった。
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