エピローグ 新章のはじまり(ヌーベルヴアーグ)
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ると、不意にテーブルの上に置かれたアサキと雲音のリストフォンが同時に振動した。
ぶいーーーー、ぶいーーーー、という本体の振動を受けて、さらにテーブルがカツカツカツカツと鳴る。
「遅刻すっぞお! お前ら起きてるかあ!」
鳴り止むと同時に、今度は野太い男性の声だ。
二つのリストフォンからそれぞれ空間投影されて、それぞれ同じ映像が表示されている。
アサキの義父、令堂修一、現在九州は熊本に出張中である。
「いま起きたとこだよお。タイミング遅っ」
「気ィ使ってあげて、そんないわれ方されにゃならんのか!」
二つのリストフォンから投影された修一が、二人揃って大怒りである。
「だってえ。……でも、ありがとうね、出張先からわざわざ」
「おう、初日、頑張れよ。しっかりな」
「うん。お父さんもお仕事頑張ってね」
アサキは、修一の映像と両手を合わせた。
パン、と小気味よい音が鳴った。
音だけでなく、アサキの手のひらには、本当に打ち合わせた感触がある。静電式触感フィードという技術によって、映像に対して触ったのと同じ感覚を得たり、その結果をAIがシミュレートしてくれる、その仕組みを利用したものだ。
「雲音もな。お前はしっかり者だから心配してねえけど、ドジな姉を抱えて大変だろうからさ。よろしく」
「任せといてや、叔父さん」
ぱあん。静電式触感フィードで叔父と姪とがハイタッチ、
しているその隣で、
「ドジな姉え?」
いまにも泣き出しそうな、なんとも情けない顔のアサキであった。
「ほらほら二人とも、時計見て!」
遠方からの起きろコールに、反対にのんびりしてしまっていた二人の姿に、直美がパシパシ手を叩いた。
「あ、いけない!」
アサキは席に着き、大慌てで食べ始めた。
ぶほり吹き出してしまい、義母と妹からひんしゅくを買いながらも手早く食べ終えて、そしてトイレ、歯磨き。
「行ってらっしゃーい」
「行ってきまあす」
義母に送られ、カバンを持って、雲音と一緒にマンションの外へ出た。
青く、澄み渡る空の下へと。
ここは、千葉県我孫子市。
天王台四丁目、駅すぐそばの住宅街である。
通うことになる天王台第三中学校は、ここから徒歩で十五分。登校初日の指定時間まで、ぎりぎりである。
「行こか、雲音ちゃん」
紺のセーラー服を着たアサキは、同じ制服の雲音へと手を差し出した。
「うん、お姉ちゃん」
雲音は珍しく素直な笑顔を作ると、出された手を取った。
ぎゅっと繋ぐと、二人は青空の下、学校への道を歩き始めた。
2
つっ、かっ
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