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俺様勇者と武闘家日記
第2部
ダーマ
シーラの試練・後編
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使い、確認してみる。
「……もうこのフロアには宝はないようだな」
「……」
 その決定的な一言に、今度こそあたしは言葉を失った。
 なんで? 『悟りの書』はここにあるって言ってたのに!? マーリンは嘘をついたの? それとも誰かがすでに持ち去った? でもこの塔はダーマの血を継ぐ人たちしか入ることはできないし……。
 頭の中で、色んな可能性がぐるぐると駆け巡る。けど、そのどれもが確定的ではなく、考えれば考えるほど絶望感は増していった。
「……帰るぞ」 
 あたしの肩にポンと手を置き、ナギちんは低い声で言った。
「うん……」
 あたしはふらふらしながら塔の出口を探した。ぼんやりと壁の辺りを眺めまわすと、ポツンと一つ小さな扉が見える。きっとそこが出口なんだろう。
「あいつ……。マーリンだっけ? やっぱり嘘ついてやがったな」
 あたしが顔を上げると、ナギちんは殺気立った表情で一点を見据えていた。
 ナギちんの言うとおり、マーリンが嘘をついているかもしれない可能性も考えてはいた。けど、彼の姉として、それだけは疑いたくなかった。実の弟が姉を貶めるなんて、あってはならないと思っていたから。
 ふとカザーブでミオちんの家に泊まりに行ったことを思い出す。ミオちんのきょうだいは皆仲が良くて、お母さんも優しくて、あったかい家族だったなぁ。あたしも、あんな家に生まれたかったよ。
 そんなことを思っていたからか、無意識に涙が頬を伝っているのに気付かなかった。あたしは慌てて手で涙を拭い、隣にいるナギちんをちらりと見るが、彼は別の方向に顔を向けていた。もしかしたら気づかないふりをしているのかもしれないけれど、ナギちんに泣き顔を見られなくてほっとする。
「……バハラタまで帰るか?」
 そうだね、と言いかけて、あたしは閉口する。マーリンはなぜあたしに嘘をついたのか、無性にその真意が知りたくなった。
「ごめん、やっぱりダーマに戻りたい」
「は!? あんな目に遭って、また行くのかよ!?」
 ナギちんの言うとおり、ここでまたダーマに戻るなんて頭がおかしいんだと思われても仕方ない。でも、あたしは知りたい。マーリンが本当はあたしをどう思っているのかを。それに、このままじゃユウリちゃんたちに顔向けできない。なんとしてでもお父様にお願いして、僧侶に転職させてもらわなければ。
「お願い。これで最後のわがままにするから!!」
「……わがままっていうレベルじゃねーぞ、それ……」
 けれど口ではそう言いつつも、結局ナギちんはあたしの願いを聞き入れてくれた。まだ当分お酒は飲めないけれど、あたしのこの選択肢は間違っていないと信じたい。そう思い、あたしたちは再びダーマへと旅立つのだった。


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