第二章
[8]前話
「不良って」
「それは」
朝ご飯を食べつつ話したが息子はこう言った。
「前のお父さんの方がいい」
「そうかな」
「だって悪いことをしたら駄目だから」
息子は真面目なのでこう言った。
「前の真面目なお父さんの方がいい」
「不良よりもなんだ」
「うん、その方がいい」
「そうなんだ」
「私もそう思うわ」
妻もここで言った、朝食のトーストを食べながら。
「髪型もね」
「七三分けの方がいいんだ」
「やっぱりね」
「そうなんだね」
「だからね」
それでというのだ。
「不良でいるよりもよ」
「前の方がいいんだ」
「ええ、というかリーゼントにしてロック聴いても」
「革ジャンも買うつもりだけれど」
「何でもないでしょ、昭和の不良っていうか」
むしろと言うのだった。
「プレスリーでしょ」
「あの人なんだ」
「不良じゃないわよ」
「そうなんだね」
「ええ、そうでしょ」
「ううん、僕はプレスリーよりビートルズだしね」
音楽の趣味はとだ、夫は答えた。
「その頃の洋楽だと」
「じゃあマッシュルームカットにする?」
「それもね」
どうかとだ、妻に返した。
「ちょっと」
「じゃあね」
「うん、大輔も言ってるし」
「私が見ても似合わないし」
「不良止めるよ」
こう言って朝ご飯を食べ終えるとポマードをそのままに髪型を戻してスーツを着て出勤した、そして以後はそんなことを言わず真面目なサラリーマンそして一家の夫であり父として幸せに過ごしていったのだった。
ぐれた夫 完
2022・11・19
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