暁 〜小説投稿サイト〜
strike witches the witches of stratos
Ep-01
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 







 
 淡い青の色彩に、幾重もたなびく白い雲。
 欧州の大国、カールスラントの東端に位置するワルシャワ空軍基地の上空は、つかの間の晴れ間を見せていた。
 前日に降った雪のおかげで周囲は一面の銀世界となり、一段と冷え込んでいたが、屋内は窓から差し込む陽ざしのおかげで思いのほか暖かい。
 そんな、ある日の昼下がり。扶桑皇国空軍中尉、加藤武子は冬の陽光が差し込む宿舎の廊下を、一人、黙然と歩いていた。
 
「……はあ」

 形の良い唇から、深いため息がもれた。
 その肩は幾分か下がり気味で、足取りはさながら仕事帰りのサラリーマンの様に重く、背中に哀愁が漂う姿は、とても十代の少女とは思えない。
 脳裏に浮かぶのは数分前のこと。基地の戦闘航空団司令、フーベルタ・フォン・ボニン少佐の部屋でチェスの相手をしていた時の事だ。
 対局も終盤、後一手で勝利というところで、かかってきた一本の電話。それが全ての始まりだった。
 そして無情にも、その一本の電話が武子の非番に終わりを告げることとなった。
 気が付けば、すでに目的地である上官の部屋の前。
 簡素な鋼板のドアを前にして、武子は再び大きなため息をついた。
 突然任務が入るのはいつもの事だ。けれど、切り替えが素早くできるかといえば、早々できるものでもない。
 とはいえ、いつまでも凹んでいる訳にもいかない。一時間後には出撃しなければならないのだ。 覚悟を決めた武子は、硬質なドアをノックした。

「優刀、いる?」

 一定の間隔でドアをたたく。けれど、いくら呼んでも部屋の中からは返事が返ってこない。
 
「どこ行っちゃったのかしら」

 時刻は正午を少し過ぎた辺り。食堂に昼食を取りに出かけたのかもしれない。 
 そう考えて部屋を後にしようとした。そのとき、

「――なんだフジ、こんなところにいたのか」

「ひゃ!」

 不意に背後から声をかけられて、武子は思わず仰け反った。
 
「あ、綾香……」 

 慌てて振り返ると、目の前に一人の少女が立っていた。
 短めにカットされた黒髪。切れ長の目からは、明朗な印象を与える。白地に青のラインが入った扶桑皇国空軍一種軍装を着込んだ少女。扶桑皇国空軍中尉、黒江綾香は言った。
  
「フジ、優刀が呼んでるぞ」

「優刀が?」

「ああ。今、外で豚汁を作っていてな」

「……へぇ?」

 予想の斜め上を行く答えに、武子は目を丸くする。

「ご、ごめんなさい。もう一度言ってくれるかしら?」

「ん? だから、外で豚汁を作っているんだよ」

 どうやら聞き間違いではないらしい。
 まともに返事することも出来ず、武子は呆気にとられた。
 彼――緋村優刀《ひむらゆうと》
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ