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俺様勇者と武闘家日記
第2部
ダーマ
シーラの転職・後編
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 オレたちの前にやってきたのは、あろうことかシーラの弟だった。突然の身内との邂逅に、シーラはさらに帽子を深く被り、俯いている。
 オレは十メートルほど先にいるそいつを、ちらりと盗み見た。
 弟と言ってもそんなにシーラと年が離れてないと思っていたのだが、目の前のそいつ……いや少年は、どう見てもオレよりも二つか三つ年下に見える。他の僧侶よりも上等の服を着ており、悠然と歩くその姿は大僧正の息子だと言うことを自ら触れ回っているように見える。おまけに彼の後ろには従者と思われる二人の僧侶がかしずくように並んで歩いていた。
 シーラと同じ金髪を肩まで切り揃えた容貌は、事前に弟だと把握してなければ少女とも見紛うほど中性的だ。その恐ろしいほどに端正な顔立ちは、信心深い人間がいたら真っ先に天使だと勘違いするかもしれない。
 童顔のシーラとは、さすが姉弟というだけあって所々似ている部分がある。ただ一つ彼女と決定的に違うところと言えば、その目つきの鋭さだろう。親しみやすい太陽のような雰囲気のシーラに対し、弟のそれは月……と言うより、研ぎ澄まされた刃物のようだった。
 オレたちは極力目立たないよう、俯き加減で歩き続けた。このまま弟がこっちに気づくことなく通りすぎるよう、必死で祈る。彼らとすれ違った瞬間、思わず息を止めたほどだ。
ーーだが。
「止まれ」
 甲高いが、抑揚のない声が響く。肩越しに振り向くと、こちらに背を向けていながらもまるで睨み付けているかのような圧を感じさせる少年の後ろ姿があった。
「な、なんだよ!?」
 思わず口に出すと、弟はゆっくりとこちらに目を向けた。その表情はまるで精巧に作られた氷の彫刻のように美しく、冷ややかだった。
「僕の姿を見て、なぜ挨拶をしない? 僕は次期大僧正だぞ」
 は!? んなこと言われても、言われなきゃわかんねーだろうが。オレは文句こそ声に出さないが、口をへの字に曲げる。
「ふむ、まあいい。その風体、おそらく盗賊だろう? さっきの無礼は見逃してやる。……君のような盗人風情でもこの聖なる地に足を踏み入れることが出来ることを、光栄に思うんだな」
 それだけ言うと、弟は従者とともにすたすたと行ってしまった。辺りに人がいないことを確認したオレが大きく息を吐くと同時に、張り詰めていた空気が霧散した。
「……本当にあれがお前の弟か?」
「うん。正真正銘、マーリンはあたしの弟だよ」
 マーリンとかいうクソガ……いや少年は、こいつの弟とは思えないほど無愛想で人を卑下するのが得意そうな人間だった。あんなやつが次期大僧正になるのか? 大丈夫か、ダーマ?
 だが、幸いオレの隣にいる人がシーラだと言うことには、全く気づいてないようだ。視界に入れようともしていないようだったが、こっちとしては好都合である。このまま大僧正に会って転職させて
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