夜の街、月夜の下で
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。私に、帝国男爵であるこの私にこんな事をして許されると思うのか!」
「生憎ながら、これが職務なのでね。これで、皇帝陛下から毎月の禄をいただいている。食うためだ。それとそこのフロイライン、早く家に戻りなさい。今度からは、夜道には十分、気を付けるのだよ。」
立ち上がって、乱された服を直した少女は、目の前の憲兵に一言礼を言うと、半ば一目散に走り去って行った。周囲に万遍なく広がる闇に紛れて、直ぐにその姿は見えなくなる。男は、両手を手錠に拘束されたまま、ずるずると引き摺られていった。抗議の叫び、呻き声を上げるも、自分を引き摺って行く黒服の男に無視されたままだった。陰に隠れた二つの色の影は、唖然としたまま、それを見送っていた。
「ああ、君達も早く幼年学校に戻りなさい。教官からの説教をもらうのは嫌だろう?」
アルブレヒトが背後にある角に向かって言うと、二つの影が見えて、目の前を走り去って行った。門限が近いのを感じているのか焦っていた。アルブレヒトは、その様子に、過去の自分を重ねて微笑んでいた。
アルブレヒトが先ほど差し掛かった交差点は、帝国軍幼年学校の近くにあるものだったのは、アルブレヒトが士官学校生時代に記憶していた。いくら、夜外出する士官学校生がいても、この時間帯にここまで士官学校から離れたところには来ないだろう。
翌日の昼間、アルブレヒトは憲兵総監室へと出頭命令を受け、出頭した。そこには憲兵総監クラーマー大将と副総監、帝国軍中将オッペンハイマー伯爵がいた。
「・・デューラー中佐。卿は面倒な事をしでかしてくれたな」
クラーマー大将が毒気を多分に含んだ声で話を始め、傍に立つオッペンハイマーは激しく頷いている。
「・・もしや、昨夜の件でございますか、憲兵総監閣下?」
アルブレヒトは、二人の上司が言いたい事はある程度分かっていたが、敢えて、間を置き、おどけた声でそう言った。他の可能性もあったらからである。
「それ以外に何があるというのだ。中佐」
「いえ、先週小官が提出いたしました大隊の訓練計画に関してかと思った次第であります。副総監閣下」
二人の視線と口調に動じることなく出てきたアルブレヒトの言葉に、二人は小さく溜息をついた。
「デューラー中佐、昨夜卿が逮捕した貴族は、ヒルデスハイム伯の従兄弟、アーヘン男爵だ。ヒルデスハイム家などを始めとした門閥貴族、その他、数多くの貴族から抗議の電文が憲兵本部と軍務省に届いた。卿に命じる。彼を、アーヘン男爵を釈放したまえ、デューラー中佐」
「御言葉ですが、憲兵総監閣下。昨夜の逮捕者のアーヘン男爵でしたか。彼は婦女暴行の現行犯。裁判を行う必要があるかと小官は考えますが。幾ら彼が伝統と名誉ある男爵家の人間であろうと、落花狼藉は法的にも、道徳的にも許されるものではありません。」
「確かに卿の見
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