夜の街、月夜の下で
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帝国歴四八〇年の夏、アルブレヒトがオーディンに駐留する憲兵隊本部に配属となってからおよそ四週間が経っていた。
アルブレヒトはその日、上官のフーバーヴェルト准将からオーディンの市街地の夜間歩哨を命令された。
中佐という佐官であり、第三十二武装憲兵大隊長として武装憲兵一個大隊を預かる彼にその命令は不思議ではなかった。だが、卿一人で行け、というのは流石にアルブレヒトも不思議がった。上官の准将に理由を聞いてもこれは命令だ、の一点張りで何も教えてはくれなかった。
アルブレヒトは、直ぐに考えるのを止めた。どうせ、大方あの准将がストレス溜まっていて、その八つ辺りがたまたま自分に来ただけの事なのだろう、と考えていたからである。こうして暇を持て余しているよりは、遥かにマシだと考えていたからだ。
そして時は流れ、日は沈み、月が夜空に鎮座する夜になった。
夜になり、月灯りが町を照らす。歩道の角ごとに付けられた街灯が、周囲の家庭や商店などのカーテンから外部に漏れ出る照明の光が、共同作業で夜道を照らしていた。だが、影は生まれ、そこはライトで照らさなくてはならない。
アルブレヒトは周囲を照らすためのライトを手に持った。それと、万一に備えて荷電粒子ビームライフルを左肩にかけ、ブラスターを腰のホルスターに挿し、安全確保の為にヘルメットを装備して詰所を出た。手錠も、一応持参してきている。いつ犯罪者と出くわすかわからないからだ。
アルブレヒトが命じられた夜間歩哨は、昼間、上官から指定されたルートを通って詰所に戻れば良いわけであって、そこまで難しい任務でもなかった。もし目前で犯罪を見つければ検挙する、仕事はそれぐらいであった。
指定されたルートの地図を思い浮かべながら、アルブレヒトは交差点に差し掛かった。当初の予定では、この角を左に曲がることになっている。この交差点は、哨戒ルートのちょうど折り返し地点といったところだった。
そこで周辺の確認の為に足を止めた途端、彼の耳朶を甲高い悲鳴が打った。彼の右手の方角から聞こえたそれは、音程からして女性のそれであることは、疑いようが無かった。アルブレヒトは、手に持ったライトの光で前方を照らしながら、音がした方向へと、慌しく走り出した。
路地裏を支配する闇の中を、二色の髪が流れていた。一つは周囲の明るさに反してその存在を際立たせ、もう一つは周りを照らすように流れていた。その流れは、金と赤の二色だった。
帝都の町の裏路地を流れゆく二つの流れは、とある角で止まった。そこから、前には進もうとはしない。それには理由があった。自分たちの目の前の光景を見たからである。
大体20代前後だろうか、年若い女性が、一人の男の下に組み敷かれていた。乱れた服の影が微かに見える。その女性の声と表情、行動には明らかに拒絶
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