第七十七話 約定
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……」
「聡い子ですね。これは贋作。中身のない代物。これだけでは堕ちた城を空に戻すことはかないません」
続いてポワンはどこからともなく、青い光を放つ瓶を取り出した。
「先ほど述べた通り、ゴールドオーブは既に砕かれ、新しいオーブを作り出すことは不可能。ならば壊されたという事実をなかったことにしてしまえばいい」
「そんなことができるのですか!?」
アベルは血相を変えた。
「それができるのなら、遥か過去に戻って魔王を倒せば…………」
確かにそれならオーブを直すということをしなくても問題はないだろう。
元々アベルの目的は囚われたビアンカや母を救うことなのだから。最初から因縁そのものをなかったことにしてしまえばいい。
結果的に救われる人も大勢出てくるだろう。
「ごめんなさいね」
ポワンはアベルに笑いかける。
今にも泣きだしてしまいそうな笑みだった。
「時の流れに介入するのは、本来なら絶対に不可能なこと。オーブが再び作れないのと同じように。私ができるのは時という大いなる河の水面に波面を広げることのみ」
「何を言って…………?」
「私が送れるあなたが今まで歩んできた軌跡のみ。そして必ず過去は今に繋がらなくてはいけない」
「…………わかりました。お願いします」
しばしの沈黙の後、アベルは頭を下げた。
「さあ、しばし今を離れ、過去へと進みなさい。時の砂が描き出す、一時へと」
瓶からこぼれだした砂がアベルの周辺に絵を形作る。
その絵に吸い込まれるようにして、アベルの姿は玉座の間から消え去った。
「女王様。お父さんは、本当に過去へ行ったの?」
「どのくらいで戻ってきますか?」
「安心なさい。もうすぐにでも戻ってきますよ」
ポワンの言葉が終わると同時に、砂絵が弾け、アベルの姿が再び現れる。
しかしアベルはうずくまったまま顔を上げようとしない。それどころか両手で顔を覆い隠していた。
「…………レックス。タバサ。ここを出ましょう」
「でも、僕、お父さんが心配だよ」
「あんなお父さんを、私放っておけません」
二人の優しさは正しいものだと理解している。けれどレックスも、タバサも、そして私も今のアベルにしてやれることなどないのだ。
怪我に薬草を使えても、毒には毒消し草が必要なように。
誰かが悲しんでいるからと言って、必ずしも優しさや慰めで全ての悲しみが拭い去れるわけではない。
「だいじょうぶよ。アベルは戻ってくるから。お父さんを信じて待ちましょう」
レックスとタバサを引き連れて、私は玉座の間を出る。
扉が閉まる寸前、アベルの背中を見る。
それは冒険者ではなく、王としてでもなく、父ですらない。幼い子供の背中だった。
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