第七十七話 約定
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「久しぶりに来た印象はどう?」
妖精郷に来るなり、黙ってしまったアベルに声をかけた。
「そうだね……。僕の記憶にある限りだと、妖精郷は雪に覆われていて、こんな景色は一瞬しか見れなかった」
「だったら実質初めて来たことになるわね」
いや、とアベルは首を横に振った。
「確かにこの景色を見るのは、初めてと言ってもいいけれど……、それでも記憶にある妖精郷と全く同じだよ。ここにいる妖精も、あの大きな樹も」
アベルの視線の先にそびえたつ大樹に視線をやる。あれがただの樹ではないことを、私は既に知っている。
この大樹は女王ポワンの城だ。
「…………ああ、懐かしいな。今も鮮明に思い出せるよ。ここに初めて来たときのことを」
誰にあてたものでもない。
数少ない彼の幼少期の輝かしい冒険を、懐かしむための声だった。
「お父さん、ぼくらと同じくらい小さかったときに、ここに来たんでしょ? なんだかおそろいになったみたいでうれしい!」
「私もです! ですから教えてください。妖精郷には森を抜けて来たんですか?」
無邪気にせがむ我が子に、アベルは顔を綻ばせた。
「いや。僕は不思議な森を抜けてここに来たわけじゃないんだ」
「えー! 森を抜けなくてもここにこれるの!?」
「じゃあどうやって来たんですか?」
明らかになった意外な事実に二人は瞳を輝かせる。
「それはだね…………」
「アベルの家の地下室からやってきたのよ」
鈴を鳴らすような、軽やかな声が背後から投げかけられた。
意識していなかったそれにやや驚きつつ、声の主に私達は視線を向けようとするが、そこには誰もいない。
困惑したのも束の間、ほんの少しだけ視線が落ちて気が付いた。
「久しぶりね、アベル」
姿が見えなかったのも無理はない。
ここは妖精の世界なのだから声の主が、人間と同じ背丈をしているはずがないのに。
「僕がわかるのか、ベラ」
「ええ。あなたがアベルだってこと。私にはすぐわかったわ」
妖精は満面の笑みを浮かべる。瞳に涙を滲ませながら。
「本当に久しぶりね。アベル」
「二十年か……。そんな時間が流れたのね。あんなにちっちゃかったアベルが大きくなるのも当たり前ね」
「そういうベラは全然変わっていない」
ベラの厚意の元、私達は女王ポワンの元へと案内されている……のはいいのだが、すっかり二人は思い出話に花を咲かせてしまっており、私達はやや蚊帳の外に置かれてしまっていた。
「やっぱり妖精と人間で、時間の流れ方は違うんですね」
「その通りよ、アベルの娘さん。私達は人間……どころか通常の命とは違うもの」
「へえー。じゃあすごい長生きなんだね!」
訂正。
子供たちはそんなことを意識してなんかいない。蚊帳の外に置かれていたのは私だった。変に気を遣
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