夜間歩哨
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る。
そして、この特別枠がさらに問題なのは、各研究科の一割近い人員をそこで占めてしまっているという点である。その人員に押されて、真にその分野を希望する候補生が士官学校やその学科に入れなくなってしまうのだ。その実例を、アルブレヒトは既に目の当たりにしていた。
昨年の同居人、ルイス・フィリップ・レンブラント二年生も実際、戦略研究科を志望していたようだが、定員オーバーで落とされ、スライドで定員割れが起きていた兵站専攻科に配属された。だが、本人はその配属に腐ることなく、今はそこで勉強に勤しんでいるという。結構な事だとアルブレヒトは思った。
戦争をする上で、後方士官の存在は無視できない。補給ができなければ、武器弾薬はおろか、食糧も確保できずに日々の食事すら儘ならなくなってしまう。戦うことなどもっての他になってしまうのだ。腹が減っては戦はできぬとは、地球における生物誕生以来からの絶対の真理なのである。
話がずれるが、アルブレヒトは今現在、同居人はいない。なんでも、ペアを作ろうにも人数が合わなくて一人になってしまった人間が数人いるようで、その数人の被害者一人が彼だった。もっとも、その間部屋のスペース全てを使い放題なので被害と呼べなくもないのだが、その事実に部屋の住人はかねがね満足していた。
アルブレヒトが担当するのはA区域。士官学校の北東から北側に位置し樹木が他よりも多く生い茂る場所だ。ファーレンハイトがB区域,ルッツがC区域を担当している。
A区域は樹木によって夜間の視界が制限されるので、歩哨にはあと数人ほど人数を割いていい場所ではないかと、担当者には思われた。木々は太く、紅、黄と様々な色で生い茂っている。その分、視界を遮ることこの上ないのである。ただ、今は少し葉も散り始めている。
懐中電灯を片手に、アルブレヒトは周囲をチェックした。彼は去年の外出許可日に、ファーレンハイトと一緒に酒を飲みに帝都へ出て、門限破りをした経験があった。初めての飲酒にはっちゃけ過ぎたのか、門限ギリギリまで飲んでいたので、真逆の方向にあるB区域から寮に戻ったのだ。当時住んでいた部屋にはB区域が一番の近道であったからだ。
樹木の影に添うように設置された金網がかけられた重さできしみ、木の枝が撓り、その反動で揺れて葉が音を立てる。着陸した時の音が、地面に散り始めた枯葉によって増幅され、巡回者の聴覚に届いた。
「誰だ」
音のする方向に、明るさを最大にした懐中電灯を向けると、そこには数名の男たちが立っていた。皆、士官学校の制服を着ており、溜息を吐くなり、肩を竦めるなりしている。走って逃げることも可能であったが、目の前にはアルブレヒトが立っているので、できなかった。その気になれば出来たかもしれない。その点で言えば、彼らは潔く負けを認めたということだろう
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