新入生
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ないつもりなのか」
防音設備が整った部屋の中、アルブレヒトは言葉を紡ぐ。だがそれは自分にも言い聞かせているような気がした。
こんな言葉を発している自分も、今は、まだ士官候補生だ。卒業して少尉に任官すれば、いずれは前線に立つ、その日には必ず、誰かの恋人を、友達を、家族を、親類を、父を、母を、息子を、兄を、弟を、姉を、妹を、直接的、間接的に関わらず殺すだろう。
数の絶対数で帝国に劣る同盟には、かの魔術師に嫁いだ女性のような女性士官だっているのだ。
その時、後悔しないように、と自分が自分に言い聞かせているようであった。殺したら戻らないのだ。三途の川の途中から引きずり出す事は出来ても、渡ってしまったら、その手はもう二度と届かない。詭弁だと、欺瞞だと、言い逃れだと分かっていても、言わずに、思わずにはいられなかった。
「レンブラント・・俺は卿に冷徹になれとは言わん。だが、卿は神ではないのだ。自分には敵に殺される権利があるなどとは、二度と言うなよ。それまでにある程度の考えは固めておけ。うだうだせずに、胸を張れ。卿は誇りある銀河帝国軍の士官候補生だと・・今日は早めに寝ろ。明日からは早いぞ。教練担当のシェッツィング中佐は新入生だろうと手加減はないからな」
「・・・はい」
レンブラントは俯いたまま、たった一言、そう言った。
彼の胸には、負い目があった。敵国で生まれ育ったという負い目。帝国に渡ってきてから、周囲の人々から受けた冷めた目線の包囲網。昔、自由惑星同盟にいた頃とはまるで違う。一人ではなかったから、なんとか耐えられた。だが、傷跡は残った。だが、ほんの少しだけ、傷は癒えた気がした。
その後レンブラントは入浴した後、自室に入り直ぐに明かりを消した。
「偉そうな事を、言い過ぎたな」
一人になった部屋で、アルブレヒトは独り呟いた。その声はすぐに部屋の空気の中に溶け込んで消えた。肯定も否定も、微かな反応さえ返って来ない。
自由惑星同盟軍陸戦総監部には“薔薇の騎士”連隊という白兵戦部隊が存在する。銀河帝国からの亡命者とその子弟で構成されている部隊だ。その類い稀なる戦闘能力の高さは帝国にも鳴り響いている。“薔薇の騎士”一個連隊の戦闘力が一個師団に相当するとは、誇張ではあっても虚構ではない表現なのだ。
卑しむような眼で見られたと、その連隊出身のある将官は言った。それは、同盟の中に残る、帝国に対する憎悪と軽蔑の表れではなかったか。いや、あるいは優越感だったかもしれない。
だが、銀河帝国に代わる銀河連邦の正当なる後継者を自称してきた同盟が帝国に好感を持つような教育を施すかと言えばその可能性は無きに等しいだろう。彼らは自らを正義と見ている。それは帝国とて同じ事なのだが、“自由惑星同盟”という名のゆりかごの中に流れているのが、反帝国
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