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不可能男との約束
小さな意志
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い後悔通り。
トーリ君だけではなく誰もがその通りの名を自分に刻んだ。
誰一人として忘れた事はないと思う。誰もがホライゾンの死を悲しんだと思う。少なくとも梅組の皆は悲しんだ。
そしてトーリ君が一番悲しんだことは誰もが解っている事だと思う。
だから、彼があの日以降、後悔通りを通れなくなったのは仕方がないと誰もが納得した。悲しいけど誰もが納得した。

……一人を除いて。

「───行けよ、親友」

ポツリと今度こそ鈴以外には聞こえない声が聞こえた。
鈴は条件反射でその声が聞こえる方に向いた。本当ならばトーリ君の方を見なきゃと思っていたのだが、だけど、その声には強さはなかったけど

……力、があ、る……?

そして振り向いた先にいたのは───シュウ君であった。
顔はまるで仕方がないなとでも言いたげな表情で、でも、その顔には優しさも含まれていて、その口から洩れたものだ。
余りにも小さくて、彼の直ぐ傍にいる人間ですら気づいていない。
そして恐らく、彼も誰にも聞かせる気がない言葉なのだと思う。
そんな言葉を聞いてもいいのかと思い、鈴は罪悪感に駆られるけど、彼の言葉は止まらなかった。

「お前の言葉は今はきっと届かないだろうがよぉ。でも───行けよ。出来ないお前の代わりに俺がそれを言ってやんよ。」

掠れる様な声だが、その小ささには不思議と温かみが感じると鈴は思った。
そこから何故か鈴は違う人を連想してしまった。

……トー、リ君……?

そう。
まるで彼が二人いるような錯覚を覚えてしまった。顔も声も背丈も全然違うのに何故か今、後悔通りの前で立ち止まっている彼みたいに思えてしまった。
何でかなと思ったら直ぐに答えが出た。
彼みたいに何故か自信に溢れていたからだ。
何についての自信かはそれは違うと思う。でも、その何かに対しての自信の質としてはトーリ君と同じくらいだと思う。
だから、つい彼と似ていると思ったのだろう。
そしたらまた違う音が聞こえた。

「十年前の後悔を」

聞き覚えはある。

「十年前の約束を」

毎日聞いている音である。

「果たす為に」

誰もが必ず聞いている音である。

「通す為に」

人間、魔神、妖精、神、竜。誰もが持っている鼓動の音。

「行っちまえよ。何も出来ない馬鹿」

だけど、その鼓動は普通のリズムだけを刻むものではなかった。

「行きたいと思う気持ちに従えよ」

そのリズムの名は───期待。

「何も出来ないお前だろうけどよ……」

ただ未来に、親友に期待する音が彼の声と一緒に聞こえた。

「お前が出来る唯一の誇らしい事だろ、それが」

そしてトーリ君は振り切るかのように背を縮めながら、後悔通りに入っていった。

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