士官学校入学
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の光景に、である。だが、ものすごく散らかっていたとか、その逆に閑散としているとか、そういうことではなかった。
これから軍人になる士官候補生の部屋の中だというのに、本や絵の具が山を作っていた。本ならまだ分かる。戦術論、戦略論など、外出許可日に帝都に外出して書物を買ってくる候補生がいないわけでもないからだ。アルブレヒトも、外出許可日には外出してみようとは思っている。だから、本に関しては不思議がってはいない。ただ、絵具はどうなのだろうか。そう思いながら、床に落ちていた一冊の本を拾い上げてみるた。すると、『日本趣味が西洋絵画に齎した影響とその理由』『現代に受け継がれる古代東洋の絵画技術』という表題の美術論だった。
「卿は、この部屋に配属された新入生だな?」
穏やかな声で、少々背の高く、長い黒髪の三年生が訪ねた。彼の手には木製のパレットがあり、背後にはキャンパスがあった。その表面には書きかけの絵が描かれていた。アルブレヒトはそれに気が付き、あわてて、覚えたての、まだ型にはまった様子もない敬礼をしながら申告する。
「この度、四〇七号室に配属されました、戦略研究科一年、アルブレヒト・ヴェンツェル・フォン・デューラーであります。一年間よろしくお願いいたします」
「そうか、卿がこの部屋の新しい住人か。私は三年のエルネスト・メックリンガー。同じく戦略研究科に所属している。一年間よろしく」
「は、はい。こちらこそ」
二人は握手を交わした。アルブレヒトは驚きを隠せなかった。当時のメックリンガーは、髪は長かったものの、まだ特徴である髭を生やしてはいなかったからである。そして、垣間見た部屋の有り様にも納得がいった。流石は、“芸術家提督”エルネスト・メックリンガー。士官学校時代からそちらに手を伸ばしていたのか、とアルブレヒトは感心した。
その後は、メックリンガーに学校行事や授業の簡単な説明などをしてもらい、一日が過ぎていった。だが、ダンスや音楽鑑賞などを始めとした、軍人には一見ふさわしくないような芸術的内容の補助科目が存在するのを知ると、アルブレヒトは内心表情を凍らせた。メックリンガーは、これから一年間の同居人が半ば、呆然とする光景を見て、苦笑せざるを得なかった。
翌日、食堂での朝食の席で二人は隣に座り、会話を始めた。
「どうだ、アルブレヒト。卿の処の上級生は」
「ああ、少々風変わりな人だが、良い人だと思う。頼りになる人さ」
ファーレンハイトの質問に、アルブレヒトは、トレイの中にあるライベクーヘンをフォークの先端で刺しながら言った。
「ほぅ、随分と分かったような口を利くじゃないか」
「信じているのさ。そう言う卿の方の同居人はどうなんだ」
「・・まぁ、悪くはないな。可もなく不可も無くという処かもしれん。これからどうなるかが見もの
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