第二部
第二章 〜対連合軍〜
百三 〜重なる気持ち〜
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「詠」
「……何か用?」
言葉にも、力がなかった。
「少し、良いか?」
「……駄目と言っても無駄なんでしょう? 好きにすれば?」
「わかった」
兼定を腰から外し、隣に座る。
「軍議の場に来なかったな」
「…………」
黙りか。
ならば、勝手に喋らせて貰うとしよう。
「昨夜、月が我が胸で涙を見せた。知っているな?」
詠は、小さく頷いた。
「普段、決して泣き言は口にせぬ月がああまで思いを吐露するとは思わなんだ。父として、娘にそこまでの思いをさせた事は痛恨の極みだ」
「……歳三だけのせいじゃないわ。僕が、無力だから」
「月はそのような事は一言も口にせぬぞ?」
「だってあの娘は、優しいから。自分を責める事はあっても、決して他人を責めたりしないじゃない」
「……うむ」
「僕だって、それぐらいわかっているわ。……いいえ、わかっているつもり」
ふう、と詠は息を吐く。
「でも、月があそこまで思い詰めているとは思いも寄らなかった。いつも傍にいたのに、気づかないなんてね」
「…………」
「そりゃそうよね。白兎(董旻)の事もあったし、ああまで一方的に悪者扱いされて心が折れない方がどうかしているもの」
「詠……」
「そう思わせない強さを持っているのも確かだけどね。……でも、アンタと一緒にいられるようになって、堪えていたものが一気に溢れ出たのよ?」
そして、詠は自嘲気味に笑う。
「全く、道化もいいところよね。月の事を何よりも知っている、理解しているつもりだったのに」
「それはその通りであろう」
「じゃあ、どうして職を辞するなんて大事な事、僕に打ち明けてくれなかったの?」
「わからぬか?」
「ええ、わからないわよ。いえ、わかりたくないわ!」
詠は立ち上がり、叫んだ。
「だって、歳三はいれば僕はもう何も出来ないじゃない! 月を、月を……ううっ」
「詠」
「ぐすっ……えっ?」
その小さな身体を、そっと抱いてやる。
「何もかも抱え込もうとするな。お前は、十二分によくやっている」
「……な、慰めなんて……要らないわよ」
「慰めと思うか?」
「そ、それは……ひっく」
眼鏡を外し、詠はごしごしと目元を擦る。
「完璧な人間などおらぬ。私も月も、お前もだ」
「……ぐすっ」
「良いか? 私は確かに月の父。……だが、一番の親友はお前しかおらぬ」
「で、でも……家族と他人は違うじゃない……」
「その通りだ。だが、家族がいれば他人は要らぬなどと、誰が申したのだ?」
詠は、涙に濡れた顔を上げた。
「お前が家族にと望むのならば、それも良かろう。本当に、詠がそれで良いのならばだが、な」
「歳三……」
「時間はあるのだ、ゆるりと考えるが良い。ただ、一つだけ申しておく」
手ぬぐいで、そっと目元を拭
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