第一章
[2]次話
悪魔のカレー
そのカレー屋のカレーは美味いので評判だ、兎角ルーの味がいい。
インド人という店長のマガバーン=ディーヴァは浅黒い肌と口髭という如何にもインド人という外見である。彫のある顔も如何にもだ。
カレーは甘口もあれば中辛もあり辛口もある、ビーフカレーもあればチキンカレーにポークカレー、シーフードカレーもある。
カツカレー、海老フライカレー、ソーセージカレー、ハンバーグカレーも人気だ。その彼の店にはだ。
ある噂があった、何でもだ。
「すげえ辛いカレーがあるらしいな」
「もう普通のカレーの何十倍も辛い」
「地獄みたいなカレーがあるらしいな」
「何でも裏メニューがあって」
「そのカレーがそうらしいな」
「その話本当か?」
常連の一人である地元のある企業で部長をしている山中敬之が応えた、面長で黒目勝ちの小さな目でやや曲がった感じの口元である。背は一七七程で痩せていて黒髪を短くしている。
「あの店俺もよく行くけれどな」
「美味いですかあね、あそこ」
「俺達もよく行きます」
「馴染みです」
「流石インド人の美味さですね」
部下達は山中に笑顔で応えた。
「あそこいいですよ」
「マジお勧めです」
「また行きます」
「それでカツカレー食います」
「俺はシーフードカレーにします」
「いや、そうしたメニューもいいけれどな」
山中は部下達に真面目な顔で返した。
「あそこに裏メニューがあってな」
「ええ、地獄みたいに辛い」
「そうしたカレーがあるらしいんですよ」
「噂ですが」
「そんな話があるんですよ」
「俺はカレーが大好物なんだよ」
山中はここでこう言った。
「だからな」
「それで、ですね」
「あの店にもよく行かれてますね」
「部長も」
「そうですね」
「俺は煙草もギャンブルも女遊びもしないがな」
実際に山中はそうしたことは全くしない。
「カレーを食うのは生きがいでな」
「そこまで好きで、ですか」
「あの店にも行かれて」
「それで、ですか」
「あの店の裏メニューもですか」
「そう聞いたらな」
それこそというのだ。
「食わずにいられるか、それじゃあだ」
「今度あの店に行かれたら」
「その時はですか」
「そのカレーを注文されて」
「そうしてですか」
「どんな辛さ、どんな味か確かめる」
部下達に真顔で話した。
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