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銀河日記
葬儀
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景を思い出しながら、ファーレンハイトは漠然として返した。
「あの人とあの人の家に後見人になってもらう。今は未だ、家を絶えさせる気にはなれないからな」
「だが、アルブレヒト。おまえはその伯父上殿の養子にはならないのか?」
「確かに、それも考えなくはなかった。だが、そうなると色々面倒だ。伯爵家の跡取り候補と見られるよりは、帝国騎士の階級を貰う方が有難い」
「普通はその逆だろう。変わった奴だな、お前は」
「それはお前もだ、アーダルベルト。普通、しんみりしている奴にアップル・サイダーを渡すなんてしないだろう。普通は、コーヒーとかだろう。それに、今は冬だぞ」
笑いながら言ったファーレンハイトの言葉に、アルブレヒトも言い返した。だが、それ不満などではなく、内容の希薄な文句であった。

「仕方ないだろう。コーヒーは少し高いんだ。一番安いのがそれだったんだ」
「ああ、分かっているよ」
どこか弁解めいた少年の答えを聞いて、アルブレヒトは苦笑した。

彼、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトの実家であるファーレンハイト家は代々、財政的にある程度豊かな帝国騎士の家柄だったのだが、ここ最近、当主が三代続いて金遣いが荒く、さらにはどんぶり勘定な人物だったので、家計が傾き、現在は苦しい生活を強いられている。

だが、ファーレンハイト家の現状、それはアルブレヒトの実家たるデューラー家とて、対岸の火事ではなく、あまり変わりないことだ。一家の大黒柱であるアルベルトが、34歳という働き盛りの年齢で急死し、妻であるマリアも含めた二人の葬儀代もかかり、これからは大した収入源も無い。もしものため、と両親が帝都銀行に残していた僅かな貯金を食い潰しての生活になるだろう。アルブレヒトは現在、中等学校には通っているが、それを卒業し終えたら、国立などの学費の安い学校に進学するか、就職するしか道がないのである。

手渡された缶の中身である、薄い黄金色の液体を飲み干しながら、心の中でアルブレヒトは再び苦笑した。流し込んだ液体が口の中で、舌の上で、甘く、甲高く、冷徹なドラムロールを鳴らす感覚が、季節を過ぎたわけもあってか、ことのほか新鮮だった。

まさか、後に勇将と名を轟かす男と、自分とミュッケンベルガーが縁戚関係にあろうとは、アルブレヒトは想像さえしなかった。だが、史実にそんな描写は一度も無い。それが運命の歯車の変化である事をアルブレヒトは知らない。二人の少年は、手にある飲み物を飲み終えた後、墓地を後にし、その入り口付近で別れた。ファーレンハイトは家に帰るため、アルブレヒトは伯父であるミュッケンベルガーに報告する為であった。


グレゴール・フォン・ミュッケンベルガーの現在の階級は帝国軍准将。現在は分艦隊司令を務めている艦隊がイゼルローン回廊内の哨戒任務を終えて帝都に
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